夢に見るほど愛してる!






「え?『見たい夢を見れちゃう呪符』の・・・効果がないんですか?」
「うーーん。効果がないと言うか・・・使用方法が、もしかして間違ってるんじゃないかなって、思ったんだけど・・・・」

そう言って私はやなみんの顔を覗き込んだ。
だけど、やなみんは目を丸くして、心当たりのない様子で首を傾げるだけだった。
そう。あれから3日3晩経つが、結局まだ、私の夢に道重さんは現われてはいなかった・・・。

今日は雑誌の撮影があった。
私は撮影の合間時間にやなみんをチョイチョイと手招きして、部屋の隅っこで、例の眉唾アイテムについて相談をしていたんだ。

「うーーん。使用方法が間違ってるって事はないと思うんですが。私もいつも、そうやって使ってますし」
「そうなんだ?でも・・・・・」
「逆に・・・何か、使用方法が間違っていると言う、心当たりでもあるんですか?山木さん」
「それは・・・・」

出た。やなみんの「逆に」攻撃・・・。
これを言われるともう、私は口ごもるしかなかった。
だって、そうでしょ?
あれから3日3晩。
毎日、道重さんではなく、私の夢の中には『愛香ちゃん』が出続けてるなんて、みんなの前で言えるハズもなかったから・・・。
しかも、愛香ちゃんと、夢の中で恋人設定とか・・・言えるワケもない。



そう。最初は勿論、この呪符の効果なんて、眉唾物だった。
最初の夜に、結局夢に道重さんは現われず、代わりに愛香ちゃんと北海道デートをしてた時も、「なんか、凄い夢を見てしまった・・・」とは思ったけど、
それが呪符の効果だとも思わなかったし、むしろ、呪符に効果がないから、道重さんが出て来なかったんだ・・・って思った。


なんだけど・・・・。


あれから3日3晩。
夢には毎日、何故か愛香ちゃんが出て来て・・・・しかも、夢の中で私は、毎回、愛香ちゃんと恋人同士で。
挙句・・・・日を追うごとに、夢の中の愛香ちゃんとの関係は、むっちゃラブラブになっていると言う。
これはこれで、さすがに「ただの夢」と割り切るには、異様だと思うんだよね。私は。


「やなみん。例えばさ。・・・・呪符の片割れを持って行ってる人が、夢の中に出てくる効能とか・・・・・ない?」
「つまり、稲場さんが、山木さんの夢に出て来てるって事ですか?」
「えっと。わ、脇役程度だけどね!!そ、そんなにメジャーな登場人物でもないけど・・・・」

まぁ、実際は脇役どころか、恋人のヒロインレベルで出てくるんだけどね。
そんな事、言えるハズもなく・・・・。
でも、そんな私の問いかけに対しては、やなみんではない、違うところから否定の声が聞こえてきた。

「んー、でも、それはないと思うよ?」

そう言って、私とやなみんの間に割り込んで来たのは、愛香ちゃんだった。
急に愛香ちゃんが私のすぐ側に接近して来るから、思わず、ビクっと体を仰け反らせてしまった。

「ま、愛香ちゃん・・・・」
「だって。まーの夢の方には、梨沙ちゃんは全く、出て来てないよ?」
「そ、そうなんだ?」
「でも、確かに私の夢も・・・・・ってか。なに梨沙ちゃん、ジリジリと、まーから離れて行くの?失礼なんだけどー!」
「あ、いや。そんなつもりはない・・・・よ?」
「って言いながら、やっぱ、下がってるじゃん!なんで逃げるのぉ?!」

そう言って、愛香ちゃんは少しプンスカした様子で、私の右腕に左腕を絡め、ガッツリとロックをして「逃げるなぁああ、梨沙ちゃん!」と笑った。
べ、別に逃げるワケではないんだけどね!!・・・ただ・・・その・・・・。
夢の中であまりにも、愛香ちゃんと、その・・・・アレな関係なせいで・・・・現実の愛香ちゃんを、妙に意識してしまって、しょーがないんだよ・・・ね。

前までは、愛香ちゃんと腕を組むなんて、全然平気だったのに。
あの夢を見るようになってから、腕を組んでるだけでも、意識しまくって、心臓がバクバクしてくる。
でも、隣の愛香ちゃんは、私と腕を組んでてもまったく平然とした様子で(まぁ、当たり前だけど・・・)、さっき言いかけていた言葉をつづけたんだ。

「でもね。確かに私の夢も、ちょっとヘンなんだよね。思ってた夢は全然観れなくて・・・・逆に、すっごい、キモチワルイ夢を見るの」
「え?気持ち悪い夢??」
「うん・・・・気持ち悪いって言ったらアレかもしれないけど・・・・うん、気持ち悪い夢・・・」

何かに遠慮するように若干言い淀んではいるけど・・・・愛香ちゃんの表情から察するに、それは相当気持ち悪い夢なんだろう・・・。
なるほど。気持ち悪い夢か・・・。
でも、なんだかそれは、私にとっては意外な言葉だった。
だって。私も思い通りの夢は見れてないけど、でも、少なくとも、気持ち悪い夢ではないからね・・・。
私のは、どちらかと言うと、気持ちのいい夢だし・・・・って!いやいや!!何言ってんだ!!私は!!

ま、まぁ、ともかく!
思わず自分の爆弾発言に自分でツッコミを入れてしまったけど・・・・・。
どうやら。私と愛香ちゃんでは、見てる夢のジャンルが、違ってるみたいだ。

「・・・・・・・ねぇ?愛香ちゃん?それって、どんな夢なの?」

これを聞くと、間違いなく自分にブーメランになるから、今まで聞かなかったのに・・・・。
気持ち悪い夢が気になって、私は思わず、この質問を投げかけてしまった。
しかし。愛香ちゃんは、私の顔を見つめ、5秒ほど顔を顰めたあと・・・・・「気持ち悪い夢だし、あんま言いたくない。ナイショ・・・・・・」と呟いた。
そして当然、こちらの質問に対し、ブーメランが帰って来る。

「ねぇ。梨沙ちゃんの夢は、どんなのなの?・・・・まーが出てくるんでしょ?」
「え・・・そ、そんなに、じゅ、重要な役じゃないけどね!!モブ役程度!!超脇役!!」
「そうなんだ。・・・で、どんな夢なの?」
「えっと・・・・まぁ・・・・・その・・・・・大した夢じゃないし・・・ナイショ・・・・」
「ふーーん・・・・」

大した夢じゃないなら教えてくれてもいいじゃん!ってツッコまれるかと思ったけど・・・。
愛香ちゃん側もナイショにしてる関係上、私が「ナイショ」と言っても、それ以上は言及してくることはなかった。
良かった。私はウソがバレバレになるタイプなので、しょーじき、愛香ちゃんに詰問されたら誤魔化せる自信がなかったので、助かったよ・・・。
でも、いずれにせよ、私も愛香ちゃんも、思い描いてた夢は見れてないらしい。
そうなると、いよいよ、呪符の効能が怪しくなってくるが・・・・やなみんは、呪符の効能の怪しさに関しては、きっぱりと否定をしてきた。

「お二人が何故、望んだ夢を見れないのか解りませんが。呪符の使い方はあってるし、この呪符は間違いなく、効果がありますよ?」
「でも・・・・・」
「私と弟も、よく、それぞれ枕に呪符を1枚づつ貼って寝てるんですが・・・・私も望んだ夢は見れてるし、弟も見れてるみたいです」
「え??本当に?!!」

私と愛香ちゃんで、思わず声を揃えて、やなみんを覗き込んでしまう。
すると、やなみんは「本当です。こんな事、先輩お二人に、ウソなんてつきません」と自信たっぷりに頷いた。
まぁ確かに。律儀なやなみんが、こんなしょーもないウソ、私たちにつくとは思えない。

「私、梁川が思うに・・・・恐らく、お2人が『夢を見たい!』と思う、『想い』が足りないんじゃないかと!!」
「お、想い!?・・・ですか?」
「えぇ。私は寝る前に、ポケモンへの熱い思いを心の中で何度も反芻します。ポケモンへの愛!ポケモンへの誓い!ポケモンへの情熱!!その想いを呪符が受け止めてくれるのです!!」

なんか。むっちゃ熱弁を奮うやなみん。
いつもは冷静なやなみんが、こんなに熱弁で語るなんて・・・・ポケモン、すごすぎる・・・。
まぁ、確かに、この情熱が、夢を産むのかもしれないな。
でも・・・。私の道重さんへの愛も、相当だと思うんだけどなぁ・・・・・・・あれでも、まだ、想いが足りないと言うのだろうか?ウソでしょ?
く、悔しい。ちゃゆへの愛は自信あったのに。あれで足りないなんて、ちゃゆヲタとして、悔しすぎる!!!!
一方・・・。愛香ちゃんも私と同じみたいで「えぇ・・・・。あれで、想いが足りないのかぁ・・・・」と、しきりにボヤいている。

すると。
そんな解せぬ様子の私と愛香ちゃんを見て、やなみんは「もしくは・・・・」と言って、その言葉を続けた。

「もしくは、潜在意識の中で・・・お二人は本当は、『違う夢』を求めてるんじゃないですか?」
「え?・・・・違う夢??」
「そう。今、お二人が見てしまってる夢。・・・・それこそが、お二人の潜在意識が求めている、理想の夢なのでは??」
「今、観ている夢が・・・・私の理想の・・・夢ぇえええ?!」

私は思わず、言葉尻を裏返らせてしまった。
え?ちょっと待って??え?!私が今見ている夢がって・・・・え?!え?!
動揺を隠せぬまま、私は側にいる愛香ちゃんに目線を向けた。
すると。愛香ちゃんは私と同じ・・・・いや、それ以上に・・・・やなみんの言葉に動揺しているように見えた。

「えぇええ!??あの夢が・・・まーの潜在意識が求める、理想の、夢・・・・?」

見る見る顔がこわばって行く愛香ちゃん。
い、いや。こわばってるを通りこして、なんか、この世の終わりの様な表情をしてるんだけど・・・。
そして、「ウソ・・・・あれが理想とか・・・・私・・・最低・・・・気持ち悪い・・・」と、ブツブツ呟いているし。
な、なんか、愛香ちゃんの絶望オーラがハンパない。
てゆっか・・・・愛香ちゃんが「気持ち悪い」とのたまう、ここまで絶望する夢って、一体なんなんだろう。
よっぽど、闇の深い夢なんだろうな・・・むっちゃ気になる・・・。

一方。そんな動揺しまくる私たちを見て、やなみんは取り繕う様に
「まぁ、あくまで私の予想であって、それが本当に、お二人の潜在意識が求める夢かは解りませんよ?」とフォローを入れてくれた。
まさか、あの空気を読まないやなみんが、フォローしてくれるとは・・・・と思ったけど。そりゃまぁ、愛香ちゃんのあの絶望っぷりをみると、フォローもいれたくなるよね。
そして、「でも。あんまり変な夢が続くようなら、あの呪符を使うのは止めた方がいいかもしれません。今週いっぱい使ってみて、効果がなければ、もう、返却した方がいいかもです」と言ったんだ。

うん・・・・確かに、愛香ちゃんの様子を見る限り。とりあえず愛香ちゃんは、早めに、返却した方がいいような気がする。
このままだと、愛香ちゃん、少し病んでしまう気がする。・・・・ってゆうか、すでにちょっと、病んでるし。
でも、私は・・・・・まだ、返却したくないと言うか。
確かに思い描いていた夢は見れてないんだけど・・・・でも、その、なんだ。意外と、今見ている夢も、満更じゃないんだよね・・・アハハ。




「今、観ている夢が・・・・私の理想の・・・夢・・・・か〜」




なんだか、さっきのやなみんの言葉が、心に重くのしかかる。
自分ではよく解らないや。あまりに近くにいすぎて、あんまり、愛香ちゃんの事を意識した事なかったもんなぁ・・・。
でも、確かに。愛香ちゃんと一緒にいると落ち着くし、自然でいられるし。居心地がいい存在なのは間違いない。
心の中では、本当は愛香ちゃんを求めてたとしても、まぁ、納得できない事はないのかも・・・・。

そんな事を思いながら、ふと隣を見ると・・・相変わらずの涙目で「うそだ・・・あれが私の理想の夢なんて・・・」とブツブツ呟いている愛香ちゃん。
ってゆっか、まだ、凹んでるし!
ホント、どんな夢を毎日見てるんだろう、愛香ちゃん。気になりすぎなんですけど!!

なんか、あまりにも気落ちしている愛香ちゃんを見かねて・・・・私は右手で愛香ちゃんの肩を抱き寄せ、左手でその頭をポンポンと軽くたたいた。
すると、愛香ちゃんは、一瞬驚いた表情を見せた後、涙目で「・・・・梨沙ちゃ〜ん」と言って、私の顔を見上げて来たんだ。
あら、かわいい。
私はそんな愛香ちゃんのおでこに、自分のおでこをコツンとぶつけると、
「とりあえずさ。今日もチャレンジしてみようよ!今日こそはきっと、思い通りの夢、観れると思うよ!?」と笑った。
勿論、確証はないけど。やなみんからアドバイスも貰ったし、なんとなくだけど、今日こそは思い描いていた夢が見れるんじゃないかと、私は思っていた。
そんな私の言葉に対し、愛香ちゃんはキュッと唇を噛んだあと・・・・微かに笑顔を覗かせて、コクっと頷いてくれたのだった。








そして、その日の夜。

やなみんのアドバイスを真摯に受け止め・・・。
私は『道重さんの夢』を観るべく、今一度、盤石の態勢を敷いた。
『夢を見たい!』と思う、『想い』が足りないと、やなみんは言っていた。
しょーじき、悔しい。ちゃゆヲタの愛が足りないとdisられてる気分で、むっちゃ、悔しかった!!
ならば、私のちゃゆヲタの総力をかけて、道重さんへの『想い』を夢にしてやると、心に誓ったんだ!!!!

一緒にお風呂に入ってくれる道重さん。バニー姿で添い寝をしてくれる道重さん。
あとは・・・・ピーーーで・・・・ピーーーーーで・・・・ピーーー・・・・な道重さん。(放送規制)
様々なシチュエーションの道重さんを心に描き、眠りにつく!!
これならきっと、今夜こそ、私の夢に道重さんが出てくるに違いない!!!!


こうして・・・私は道重さんへの重すぎる愛を反芻し、眠りについた。
そして、その夜。
そんな「道重愛」を盤石なまでに敷いた、私の夢に現れたモノは・・・・!!!
それはもう・・・・。
今までとは比較にもならないぐらい!!!!






濃厚で濃密で汁だくすぎる・・・・愛香ちゃんとの夢だった。






翌朝起きた時、
私は愛香ちゃんへの罪悪感から、それはもう・・・・30分ぐらい、ベッドの上で凹んでいたのは、言うまでもなかった。



( Bへつづく・・・