もうひとりのあなたへ・・・



第6章 あなたの夢を叶えてあげたい





部屋の中には、アッサムティの柔らかい上品な香りが漂っている。
彼女の言葉を聞き、私は何も言えぬまま、ただ呆然と、ソファの隣に座る彼女の顔を見つめていた。
楽しそうに、そして悪戯っぽく笑っている千佐子さんの表情は、ちぃが良く見せる笑い方に似てて、心臓が高鳴った。

「ちぃが・・・・・私を??そんなわけが・・・・」

なんとなく、その顔を見つめているのが恥ずかしくなり、私は目を伏せ、小さくかぶりを振った。
だが、千佐子さんは、手に持っていた食器をテーブルに置くと・・・・目を伏せる私を、下から覗き込んで来た。
口には出さなかったけど「目を逸らさないでください!!」と、彼女の目が、そう語っていた。

「そんなわけも何も・・・・誰がどう見たって、知沙希さん。あなたの事・・・・好きじゃないですか」
「う、嘘でしょ??ぜったい、違いますよ・・・そんなの・・・・」
「いや。嘘でしょ?は、こちらのセリフです!!!・・・・本当に、気づいてらっしゃらないんですか?梨沙さん??」
「でも・・・・」
「でももへったくれもありません。あんなにわかりやすいのに・・・・ほんと、鈍感にもほどがあります」

そう言って、なんだか、千佐子さんに珍獣を見るような目で見られる。
うう。普段はおっとりしてる千佐子さんに、まさか、へったくれと言われるなんて・・・・。
・・・・・・・・・。
まぁ、確かにちぃは、私にめっちゃ懐いてるとは、自分でも思うけど・・・さ。
でも、それは、単にちぃが甘えん坊なだけなんじゃないのかな?と、私は思うんだけど。。

「ちぃが・・・わたしを・・・・好き・・・・」

そう言葉にした瞬間。
それはもう、なんだか急に恥ずかしくなって、顔が真っ赤に火照ってくる。
ミスター耳赤と言えば、ちぃの専売特許なのに。。
ちぃの事が言えないぐらい、耳赤になってるであろう私に、千佐子さんは言葉を続けたんだ。

「でも。梨沙さんも、知沙希さんの事・・・・好きなんでしょ??」
「はぁ??な、なんで、そう思うんですか?」

突然の発言に、思わず声が裏返る。
いや、まぁ、好きなのは好きだけど・・・・それは恋愛とかではなく、友達とか、家族的な愛情であって・・・。
だけど。千佐子さんはクスっと笑うと、私にこう、言い放ったんだ。

「近くでずーっと観てれば解ります。・・・・梨沙さんは私に、凄く優しい」
「???」
「でも。。知沙希さんには・・・・チョーーー優しい!!!」

・・・・さすが。
出会ってから四六時中、ずっとちぃの近くに居ただけあって。
千佐子さんの「チョーーー」のイントネーションが、驚くほど、ちぃの口癖そのものだと、私は思った。
でも、チョーーー優しいと言われても、あんまり私にはピンと来なかった。

だってさ。
千佐子さんはそう言うけど、ちぃはちぃで、「梨沙ちゃんは、千佐子さんにばっか優しい」って、むっちゃ怒ってたし。

でも。私がそう告げると、千佐子さんはクスクスと笑い、
「隣の芝生は青いじゃないですけど・・・・知沙希さんは、ちょっとだけ嫉妬屋さんだから、そう見えるだけですよ」と肩を竦めた。
確かに。ちぃが少しワガママで嫉妬しぃなのは、事実だと私も思う。まぁでも、そう言うとこがカワイイんだけどね・・・。


「実際は。誰が見たって、知沙希さんの方が梨沙さんにとって特別ですよ。だって・・・・そうでしょ??」


そう言った瞬間――。
隣に座る千佐子さんは突然、私の背中に腕を回し、ギュッ強く抱きついて来た
彼女の頬と私の頬が一瞬、触れる。。
突然の事に、私はびっくりして、「ちょ、ちょっと、千佐子さん!?」と叫び、思わず彼女の体を押し離してしまう。
肩を押され、離された千佐子さんは「ふふ・・・ごめんなさいね」と言って、クスクスと笑っていた。
そして、言った。

「ほら。私も知沙希さんも、同じ体なのに。・・・あなたは知沙希さんしか、受け入れない」
「え・・・・・?」
「知沙希さんの時は、あなたいつも、抱きしめてあげたり、頭撫でてあげたりしてるじゃないですか・・・・」
「それは。。ちぃはいつもの事だし・・・。そ、それに、今は急だったから、つい、ビックリして離してしまっただけで・・・」
「急で、ビックリしただけですか??じゃぁ、今から私の事、抱きしめてくれっていったら、ちゃんと抱きしめてくれます??」
「あ・・・いや・・・・そ、それは・・・その・・・・・」

思わず口ごもる。
何も言えなくなった私に「・・・ほら。」と言い、千佐子さんは一瞬だけ、寂しそうな表情を浮かべた。
そして、ソファの背もたれへ深く腰掛けると、クッションを膝の上に抱え、虚空を見上げ呟いたんだ。

「誰が見たって、あなたにとって、知沙希さんは特別ですよ・・・」
「で、でも・・・・それは・・・・・・・・」
「わかってます。それが恋愛感情ではなく、妹とか、友達に向けるような特別でも・・・・・・あなたにとって、知沙希さんは特別です」
「・・・・・・・・・・」
「そして、知沙希さんは。。あなたが思ってる特別とはまったく違う、特別。それは『恋愛』と言う名の特別で・・・あなたを特別に思ってます」
「なんでそんなの・・・・・わかるんですか?」
「解りますよ。だって私と知沙希さんは、同じ体で、同じ心を共有してるんですもん」

そう言うと、千佐子さんはクッションを抱きしめたまま、ハァ〜と大きく息を吐いた。
そして、フフッと小さな声で笑い「お節介かなって思うんですけど。私、知沙希さん大好きだから、お節介したくなっちゃうんです」とほほ笑んだ。

「だって、お節介しないと、あなたたち、進展しそうにないんだもん」

そう言う千佐子さんの横顔は、
ちぃと言うよりも、なんだか、ちぃのお姉さんの様に思える大人っぽい横顔だった。







時計の針は24時を回っていた。静かな空間だった。
静かすぎて、自分の心臓の音が、妙に気になってしまう。
この微妙な静寂の間が居た堪れなくなり、私は手を伸ばし、テーブルの上のアッサムティを口にする。
少し冷めて来てたけど、黒砂糖を溶かしたアッサムティは、やっぱり甘くておいしかった。。

「梨沙さん。あなたは知沙希さんを、どう、思ってるんですか??
「・・・・・・・」
「やっぱり、妹や家族にしか思えないですか??」

じっと、窺うように、千佐子さんは隣から私を見つめている。
ちぃの顔で観られると、なんだか無性に恥ずかしくて、答えづらい。
バクバクする鼓動を抑えながら、私はアッサムをもう一口、口に含み・・・・乾いたのどを潤し、こう答えた。

「もちろん。。ちぃの事は好きです。それは、家族とか、妹ととか・・・そう言う思いです」
「・・・・・・・・・・・そう。やっぱり、そうですか」
「で、でも・・・・。ずっと、そう思ってたけど。やっぱり・・・・それだけじゃないかも。とも。思いました」
「え??」
「さっき。ちぃが私の事を「恋愛」と言う名の特別で、特別に思ってくれてるって聞いて・・・・しょーじき、全然嫌じゃなくって」
「・・・・・・・・・・」
「むしろ、すっごい嬉しくて・・・・なんか、ちょっと、気持ちが高揚してくるって言うか・・・」

恋愛感情。

しょーじき、今まで考えた事もなかったし、考えようともしなかった。
私はちぃを家族とか妹の様にしか思ってなかったし、ちぃも私の事は「お姉ちゃん」とか、そう言う感じで懐いてるのかと思ってた。。
そして。今まで考えもしなかったから、私はただ、ちぃを「妹」のように可愛がっていた。

だけど。

いざ、これらの思いを「恋愛」と言う言葉で表現された時に・・・。
自分が思ってた以上に、悪い気がしなかったと言うか。。思ってた以上に、しっくりくると言うか。。
単に、自分がその言葉を今まで考えもしなかっただけで・・・本当は、この言葉が正解なのかもしれないと、思った。

私はチラッと振り返り、ソファの隣に座っている千佐子さんを見つめた。
彼女はキョトンとした目で、私を観ていた。
ちぃそっくりの表情に・・・・なんだか照れくさくなり、誤魔化すようにちょっとだけ微笑むと・・・・私は彼女に、こう、言ったんだ。

「そうですね。この感情が、どこまでが妹に向けるような慈しみで、どこからが恋愛感情なのかは、よく分からないですけど・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「私もちぃの事・・・・・・少なからず・・・・恋心として・・・・好きなんだと思います」

そう言って。私は思わず耐えきれなくなり、
「あー!もう!!何言わせるんですか!超〜恥ずかしいじゃないですか!!」と、千佐子さんの腕を肘でツンツンと小突いた。
うわっ!!むっちゃ、恥ずかしい!!ってか、千佐子さん、聞き上手すぎでしょ!?
私、なんでこんな事、話しちゃったんだろ、もう!!!顔から火が出る程、恥ずかしいんですけど!!!!




だが・・・・・。





むっちゃ私が恥ずかしがってる一方で。。
不思議な事に、隣にいる千佐子さんは、私に「知沙希さんの事を、どう思ってるんですか?」と聞いて来たくせに、
いざ私の返答を聞くと、超絶無反応だった・・・・。
いや、むしろ。私の言葉を聞いて、完全に固まっていた。まんまるな目で、私の顔を凝視しているだけだった。

「ん?千佐子さん???どうしました???」

思わず私は千佐子さんの顔を覗き込む。
すると、彼女の固まっていた表情はようやく解け「え・・・・・??」と呟き、右手で自分の口元を抑えていた。

「うん?千佐子さん??」
「え?梨沙ちゃん??・・・・え??」
「え?」
「え??」

お互いに「え?」の応酬。その反応に、私の背筋は一瞬で凍り付く。
「え??り、梨沙ちゃん??」と私の名前を呟き、一気に、耳まで真っ赤になる千佐子さん。
いや・・・・待て。
この耳まで真っ赤になるミスター耳赤っぷりは・・・いや、待て!!待ってくれ!!!
まさか、これは!!!!

そう・・・私は血の気の一気に引いた表情で、恐る恐る目を見開く。
目の前にいる彼女は、ももちせんぱいの声で「あっれぇ?ちぃちゃん、耳真っ赤っか〜!!」と幻聴が聞こえてくるレベルで、
それはもう、顔中、真っ赤だった。えっと。その・・・・もしか・・・・もしかしてですよ??

「えっと・・・もしかして・・・・今・・・・。。ちぃ??」

私の恐る恐るの問いかけに、耳まで真っ赤にし、口元を抑えながら・・・・目の前の彼女は頷いた。
・・・・・・・・・・・・・。
ですよね。この耳赤っぷりはそうだよね。
ってゆっかさ・・・・

「ちょっと待って!!!いつの間に、ちぃになってたの!?!?」

嘘でしょ!?
だって私、千佐子さんと喋ってたじゃんか!!!!はぁ??!!!
するとちぃは「わかんない。なんか急に千佐子さんがどいて、目が醒めたの」と答えた。

「そんで、目が醒めたらいきなり、梨沙ちゃんに告られたんですけど!!!??」
「!!!!!!!!!!」
「なんで?!なんで急に、ちぃ、告られたの?!!ねぇ、梨沙ちゃん!!?」

そう言って、ちぃは耳まで真っ赤にしながらも、むっちゃ嬉しそうに私の肩を揺さぶり問いかけてくる。
なんかもう・・・。
私はとりあえず、「うぁあああああああ!!!ハメられたぁああ!!!」と、心の中で悲鳴を上げるしかなかった。
なんで?!なんでなの!??さっきまで、千佐子さんだったじゃんかぁあああああ!!!!

すると・・・・。
目の前のちぃの表情が、ふと、変化した。
嬉しそうに顔を真っ赤にしたちぃの表情は一瞬だけ、さっきまでの、大人っぽいちぃの表情に戻った。
そして、目の前のちぃ・・・・いや、千佐子さんは、例の『アレのポーズ』をして、私にこう言ったんだ。

「梨沙さん・・・・ごめんね(ハート」
「ちょっ!!!!千佐子さん!!!!!」

もー!!!ちゃっかり、こーゆー、カントリーの小ネタまで覚えて!!!
そして、そそくさと千佐子さんは逃げ、再びミスター耳赤に戻る。
自分だって真っ赤っかのくせに、ちぃはむっちゃ満面の笑顔で「あれぇ!?梨沙ちゃん、耳真っ赤っか〜!」とちょっかい出してくる。
あーーもう!!!解ってるよ!!耳まで真っ赤になってるであろうことが、自分でも感じられるわ!!
頭の中がもう、パニックパニックのオラしんのすけ状態だった!!!逃げたい!!もう、この場から逃げ出したい!!!

「あーもう!!!・・・・ごめん!!ちぃ!!わたし、もう、家、帰るわ!!!!」
「・・・・は??帰るも何も、ここ、あなたの部屋だから!!落ち着いて!!」

むっちゃ、ちぃにツッコまれる。
あぁ〜そうだっけ?私の部屋なんだっけ???
え?ってか、私の部屋で2人きりで、告っちゃったの??わたし??ウソでしょ?!
とりあえず、私はもう、もう、全力で誤魔化すしかなかった。

「違うんだぁ!!!い、今のは違うから!!!ちぃ!!気にしないで!!」
「え?!なんで?!何が違うの!???・・・・いいじゃん!!違くないじゃん!!」
「ちがくて!!!」
「ちぃの事、梨沙ちゃん、恋心として好きなんでしょ!?いいじゃん!!わたし、嬉しいよ!!!」
「あーーー!!だから、それは違くて!!」

もう・・・・とりあえず逃げ出したかった。
私の腕を掴み「違くないじゃん!!」とプンスカするちぃの腕を振り払い、
部屋から逃げ出すべく、ソファから立ち上ろうする、わたし。
すると、ちぃは「ちょっと、逃げないでよ!!!梨沙ちゃん!!」と怒鳴り声をあげた。

そしてちぃは・・・全体重をかけて、私の体をソファーの背もたれに押し倒し・・・そのまま、唇を重ねて来たんだ。






物凄い勢いで、心臓が高鳴っていた。
直前に暴れてたせいもあるけど、それ以上に・・・・体に伝わってくる熱と、唇に触れる感触が・・・私の心臓を高鳴らせる。
啄むように2、3回、下唇を食まれる。その柔らかな感触に、頭の中が吹っ飛びそうになる。
私は完全にビビってしまい、ちぃの頬に触れ、咄嗟に押し戻してしまう。

「ちょっ・・・・ち、ちぃ・・・・??」
「ヤだよ。逃げないでよ・・・梨沙ちゃん」
「え・・・・・・」
「なんですぐ逃げるの?ちゃんと、こっちの話も聞いてよ・・・」

そう言ってちぃは、私の背中をギュッと抱きしめると、鼻面をそっと私の頬に寄せて来た。
なんだか、うちのベルにゃんが甘えてくる時の様な、その可愛らしい反応に、動揺してた気持ちもちょっとだけ落ち着いてくる。
「・・・・・そうだね。ごめん」
そう呟き、わたしは、抱き着いてくるちぃの髪の毛をそっと撫でた。
すると、ちぃは嬉しそうに「へへ・・・」と小さく笑い声をあげて、私の肩に顔を埋め、背中に回した手をギュッと強めたんだ・・・。

しばらく、この状態が続く。
体には・・・・抱きついた、ちぃの熱がむっちゃ伝わってくる。
熱いんだけど、全然嫌な熱さじゃなくて・・・・なんだろうね?温泉みたい?
ポカポカとして、ずーっとこうしていたくなるような、気持ちいい暖かさを感じていた。
ゆるきゃらの上、温泉とか、ホントにちぃは癒しだなぁ・・・と私は思った。
肩に埋めた頭をポンポンと撫でると、ちぃは肩に顔を埋めたままに、ポツポツと、語り始めたんだ。

「わたしもね。梨沙ちゃんの事・・・・好きだよ・・・・」
「うん・・・・・」
「もしかしたら、梨沙ちゃんもちぃのこと好きで。。恋人みたくなれたら嬉しいなって・・・・ちょっと夢見てた」
「そっか・・・・そうなんだ・・・・」
「でも、梨沙ちゃんポンコツだから、きっと、一生気づいてくれないとも思った」
「ははは・・・・・」

折角のトキメキシーンで、人をポンコツ呼ばわりするな!!って心の中でツッコむ。
まぁでも、悔しいがしょーじき、否めない。
実際、千佐子さんがいなかったら、気づけなかったと思う・・・。

そう。千佐子さんがいなかったら・・・・。

「目が醒めたらいきなり告られて。。これ、千佐子さんが仲介してくれたんだよね??」

ちぃもなんとなく解ってるみたいだった。
「うん・・・・」私はちぃの髪の毛を手で梳かす。
そう。情けないが、千佐子さんにハメられなかったら、一生こうならなかった自信があるわ。

すると、ちぃは肩に埋めていた顔をあげ、私の顔にそっと顔を近づけてくる。
あと1センチぐらいで、互いの鼻が触れてしまうような距離。
さっきまで耳が真っ赤だったけど、今は目が真っ赤で・・・・もしかしたら、少し泣いてたのかもしれない。

「あのさ、梨沙ちゃん。絶対に成功させよっ。シャイニング・・・・」
「うん。。」
「私は見ていた夢を叶えて貰ったから。今度は、千佐子さんの夢を叶えてあげたい」
「そう、、、そうだね!!!」

私の手をギュッと握り、
真っすぐな目で、そう語るちぃに、私は力強く頷き返した。

私がちぃの好きな所。
まぁ、ゆるきゃらとか、子供っぽいとことか、色々あるけれど・・・。
ちぃは時々、こういう目をする。真っすぐに澄んだ目。
そして、いつものゆるきゃらとは全く違う、熱い思いを、この目で語る時がある。
滅多に見れないレアちぃシーンだけど、時々みせる、こういう部分も好きだ。
うん、そうだね。・・・・ハッキリ言って、こーゆーちぃも、むっちゃ好きだね!!

「・・・・・・ねぇ。ちぃ」
「ん??」

数センチの距離。
私が右手で左頬に触れると、ちぃはまんまるな目で「なに??」と問いかけるように、じっと見つめて来た。
私はニコッとほほ笑むと、ゆっくりと、彼女に唇を重ねた。
まさか、私からしてくると思わなかったらしく、ちぃはしばらく、ビックリした様子で固まっていた。

「・・・・・・・・・梨沙ちゃん?」
「まぁ。なんだ・・・・・その・・・・・。あの・・・す、好きだよ・・・・」
「梨沙ち〜〜〜〜〜ゃん!!!」

ちぃはその瞬間、むーっちゃ嬉しそうに破顔一笑。
ワンコが尻尾振って飼い主に飛びかかってくる勢いで、私の体に抱きついて来た。
「チョーーー好き!!梨沙ちゃん」
そして、むっちゃ頬を摺り寄せてくる。あーもう!なんだこの、生き物!!ホント、かわいいなぁ!!!

こうして・・・時々、唇を重ねつつ。
しばし、見つめ合って頬寄せ合って・・・くっついて、じゃれ合いながら時を過ごす。
そんな、なんとも幸せな時間を過ごしている。最中だった――。
ちぃは突然「・・・・・あっ」と、何かを思い出した様に呟き、わたしから俄かに、体を離したのだった。

「ん?どしたの?ちぃ??急に・・・・」
「え?あ、いや・・・その・・・・・」

さっきまで、むっちゃイチャイチャしてきたくせに・・・・なんだか急によそよそしくなるちぃ。
むっちゃ、顔、真っ赤にしながら、体を起こし、周辺をキョロキョロしている。。
不思議そうにちぃを見ていると、急にミスター耳赤になったちぃは、ポツリと、こう呟いたんだ。

「よ、よく考えたらさ・・・・」
「うん。」
「見えないけど。そこらへんに、千佐子さん、いるんだよね・・・・??」
「・・・・・・・・・・・・・!!!!!」

い、言われてみればぁああ!!!

み、見えないの解ってるのに・・・・思わず辺りをキョロキョロと見渡してしまう、私とちぃ。
急激にめっちゃ恥ずかしくなってオロオロしていると、目の前にいるちぃの表情が、フッと変化した。
そして、表情の変化したちぃは、チョーニヤニヤとしながら、私に、こう言ったんだ。

「フフフ。大丈夫ですよ、梨沙さん??お邪魔はしませんから〜」
「・・・・・ち、千佐子さん??」
「あ!気になるなら、わたし、ちょっと東京観光でもしてきますから!!今夜は2人で、ごゆっくりしてください!!」
「ちょっ!!!そ、そーゆーのいいから!!気遣い、いらないですから!!!」
「では、2人でごゆっくりしてください〜!!ばいちゅん!!」

そう言って・・・・。
いつ覚えたのか、最高の笑顔で「ばいちゅん」と告げた瞬間、ちぃは元のちぃに戻った。
ハッとして、私の顔を凝視するちぃ。

「あれ??わたし、今、千佐子さんと入れ替わってた??」
「あ・・・・うん・・・・」
「千佐子さん、なんだって??」
「えっと・・・その・・・・東京観光してくるから・・・今夜は2人で・・・・あの・・・・ごゆっくりって・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・ほぅ??」

なに!?今の「ほぅ??」って反応?!
すると、ちぃはむっちゃ含み笑いを浮かべながら、顔を真っ赤にして、私を上目遣いで見つめてくる。
え?え?なにこれ??ゆるきゃらが、むっちゃ、獣の様な目で私をみてくるんですけど!?
さっきまでのオロオロっぷりがウソみたいに、ちぃは「ほーん。そっか、2人きりかぁ・・・」と呟いている。
なんなの?なんなの、この子??ちょっと怖い!!!

「じゃぁ、梨沙ちゃんさ〜」
「は、はい・・・・・」
「2人きりってことだし・・・・・」
「はい・・・・・」

私が人形のように、ただコクコクと頷いていると・・・・それはもう、ちぃはおもっきり、私の体に抱きついてきた。
バランスを崩し、勢いよくベッドに背中から倒れ込む。

「ちょっ!!ちぃ!!!!!??」
「へへ!!朝まで2人っきりだね、梨沙ちゃん!!!!!!」
「ちょ!まっ!!!!ちぃ、落ち着け!!待て!!・・・・ハウス!!」
「ぜったい、やだよー!!!わん!!わん!!わん!!!!」

・・・・・・・・・・・。
こうして、無理やりもりとち犬に押し倒され、甘えられ、イチャつかれ。
『2人きり夜』は過ぎ去って行ったのだった・・・。


(第6章 完   第7章へつづく・・・・