夢に見るほど愛してる!






やなみんを中心に、メンバー全員が集結しているレッスンスタジオ。
スタッフさんがむっちゃ、いつまで休憩してるんだよ〜って目で見ているけど、さすがにこの空気の中、割り込む事も出来ないらしい。
ごめんなさい、スタッフさん。もうちょい、待っててね。
そう、心の中で謝りつつ、私はさっき、やなみんが言った言葉を反復した。

「私たちの呪符の使い方が・・・間違ってた・・・・って?どーゆうこと?」
「はい・・・・。実は私の理解不足でして、お2人に間違った使い方を教えてしまってたみたいです」
「間違った使い方?」
「今のやり方では、どれだけ強く想った所で、望んだ夢は見れないんです」

そう、断言するやなみん。
その瞬間、隣で愛香ちゃんが「えぇ??」と素っ頓狂な声を上げた。
あれ?今のやり方では、望んだ夢を見れないって・・・・あれぇ?
愛香ちゃん、確か、さっき。望んだ夢をついに観れたとか、豪語してなかったっけ??
私がチラリと愛香ちゃんの方を顧みると、愛香ちゃんはすぐに私と目線を合わせ、意味がわかんないと言った様子で、しきりにかぶりを振っている。
一方。動揺する私たちとは裏腹に、ももち先輩は興味津々のご様子で、「ってか。なんでやなみんは、使い方が間違ってたって解ったの?」と問いかけた。
すると・・・

「あ、はい。実は昨晩。お母さんに『あの呪符、どうなったの?』と聞かれたので、山木さんと稲場さんに1枚づつお貸ししてる事を伝えたのです」
「うん。で・・・・?」
「したら、お母さんに『それ使い方間違ってるわよ』って。『自分が観たい夢を見たい時は、1人で2枚ともを枕に貼らないとダメ』って言われてしまいました」

そう言って、申し訳なさそうに眉をしかめるやなみん。
なるほど。甲と乙、2枚とも1人の枕に貼らないとダメなのか・・・。
つまり、1枚づつ使っても効果がないって事??え?でも・・・・効果が全くないって事はなさそうだけどな。
確かに。私が望んでいた、道重さんの夢は見れなかったけど・・・でも、明らかに私は、不思議なぐらいに生々しい夢を、毎回観てる。
愛香ちゃんも、気持ち悪い夢を見たり、逆に、望んでいる夢を見れたり。明らかに夢に影響を及ぼしてる気がするんだけど?
一方、私と全く同じ疑問を感じたのだろう・・・愛香ちゃんは、恐る恐る手をあげると・・・
「えっと、やなみん。じゃぁ、1枚づつ貼っても、何も効果がないの?そんな事ないような気がするんだけど・・・」と、問いかけた。
それに対し、やなみんは・・・「えぇ。勿論、2人が1枚づつ使うやり方も存在します」と頷いた。
「あくまで『自分の望んだ夢を、自分が見たい』場合は、1人が2枚使う必要があります。ですが、2人の人間が1枚づつ貼るやり方も、存在するんです」
そう前置きしたあと、やなみんから告げられた言葉は、私と愛香ちゃんにとって、あまりにあんまりすぎる、言葉だった・・・。

「2人が1枚づつ呪符を枕に貼る。その場合は、『2人の見たい夢が入れ替わる』効果が発生します」
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「つまり。甲の夢は乙に。乙の夢は甲へと、入れ替わってしまうのです」
「はぁあああ??!!!!!!」
「ちなみに、同じ枕に2枚呪符を貼ると、入れ替わっても、同じ枕なので・・・結果、自分の望んだ夢が観れると言うシステムです」

え?え?え?え!?
ごめん、え?!言ってる意味が理解出来ない!!
甲の夢が乙に。乙の夢が甲に・・・・え?
い、いや。言ってる意味が解るっちゃ解るけど・・・・解るけど・・・・理解出来ないと言うか、理解したくないと言うか・・・え?!

あからさまに動揺する私。
そんな私とは対照的に、完全に沈黙して固まっている、愛香ちゃん。表情がむっちゃ固まってる・・・・。
ブラックまなかんだ!!マズイ、愛香ちゃんが、完全にブラックまなかんと化してる!!
そう。愛香ちゃんは笑顔1つ見せないまま、圧倒的なダークオーラを身に纏い、やなみんに問いかけたのだった。

「でも・・・さ。やなみん。弟といつも、この呪符使ってたって言ってなかった?で。ちゃんと、望んだ夢を見れてるって・・・」
「そうなんです!!だから私も勘違いしてたんです!!弟と1枚づつ貼っても、ちゃんと望んだ夢を見れてたばっかりに、完全に騙されてました!!」
「えっと・・・・それって・・・・どーゆー・・・・」
「以前お伝えしたとおり。私はいつも、ポケモンを思って眠りについていたのですが・・・。考えてみれば、弟も、ポケモン大好きなので。私たち姉弟は、例え夢が入れ替わっても、ポケモンマスターになる運命は、変わらなかったのです!!」

そう言って、やなみんは、
私たち2人を相手に、力説に力説を重ねた。

あ〜。でも、確かに、違和感はあったんです!!
私は寝る前に、レックウザを求めて眠りについたハズなのに、夢でGETしたのはサザンドラだったんです!!
まぁでも、「あく」と「ひこう」タイプの違いはあれど、どちらもドラゴンタイプの素晴らしいポケモンですし、多少の誤差は、気にしてはいなかったのですが。
今思えば、寝る前に弟が「今日は、サザンドラが欲しい」って言っていたなぁ〜〜と。
あの弟が言った伏線に気づいていれば、夢が入れ替わっている事に気付けたのかもしれません。
すみません、まだまだ、私、梁川、思慮不足でした・・・・と。


・・・・・・・・・・・。


うん。ごめん。
言ってる言葉の8割ぐらい、意味が解らないよ、やなみん。
でも、とりあえず、2つだけ解った事がある。
やなみん姉弟は、2人揃ってポケモンマスターである事。そして、呪符を貼った者同士の夢が入れ替わる・・・・・・・って事。
そして、その瞬間。
愛香ちゃんの、それはもう、怒り心頭の怒号が、スタジオ内に響き渡ったのであった。。

「あーーーもう!!!だからじゃん!!だから、まーの夢に、気持ち悪いコスプレや気持ち悪いシチュエーションの道重さんが、毎日出て来てたんだぁあああ!!!」
「・・・・・・・・・え?!道重さん?」

あまりに突然出てきた「道重さん」と言う魅惑の単語に釣られ、私は愛香ちゃんの方を振り返る。
だが、愛香ちゃんは驚くほどに、激おこぷんぷん丸状態。
顔を真っ赤にして、涙目になりながら、まくしたてるように、言葉を続けたのだった。

「どーりで毎晩。夢が気持ち悪いと思った!!梨沙ちゃんの望んだ夢が、こっちに流れてきてたの?!!最低!!」
「え・・・・・!?ちょっと待って、愛香ちゃん?え?え?」
「道重さんが赤ちゃん服着てバブーって甘えてくる夢とか。道重さんがふんどし姿で祇園山笠祭に参加してる夢とか、もう、ホント、気持ち悪かったんだから!!」

そう言って両手で顔を覆って、泣き崩れる愛香ちゃん。
ってゆっか・・・・えぇええ!!?
私が観たかった、赤ちゃんコスの道重さんや、祇園山笠コスの道重さん、愛香ちゃんの夢の方に出てたの!?うっそ、羨ましい!!!
気持ち悪い夢どころか、ナニソレ、至高の夢じゃん!!!なに、言ってんの、愛香ちゃん!?
・・・・・・・・・・・・・・って、私は思ってたけど。
周りから、ももち先輩や、ちぃや、舞ちゃんが、むっちゃドン引きした様子で「うわぁ〜〜それは、気持ち悪い」と言ってるのを聞き、若干戸惑う。
え?気持ち悪いの??どしふん姿の道重さんって、みんな、観たいと思うモノじゃないの??
で、でも!!「道重さんの夢を 『気持ち悪い夢』扱いは、失礼だと思うんだけど・・・・」と、私が言った瞬間、愛香ちゃんは、それはもう、ブチ切れた。

「あのね!フツーの道重さんの夢なら幸せだよ!?一緒にステージで歌うとか!!でも、梨沙ちゃんの夢は変態くさいの!!なんで、どしふんなの?!」
「だって、道重さんのお尻はお綺麗だし。さぞや美しい、祇園山笠ふんどし少女になるだろうなぁーって!!フツー思うじゃん!!」
「思いません!!梨沙ちゃんは、ちゃゆヲタの上、変態だし変態だし変態だから、そう思うの!!ふつーの人間は『なに、この気持ち悪い夢』って思います!!」
「で、でも・・・・」
「しかも、一番最低だったのは4日目の夢!!一緒にお風呂で乳児プレイだわ、バニー姿の道重さんが『ちゃゆでちゅよ〜』と言いながら、添い寝してくるわ、挙句・・・・道重さんが、ピーーで、ピーーーで、ピーーー(放送規制)だわ!!ホント、最低!!!」
「ちがっ!そ、それは・・・・・・や、やなみんが『想いが足りないから、夢が観れない』って言ったから!!それぐらい、妄想しないとダメかと思ったのぉ!!」

むっちゃ愛香ちゃんの気迫に気押されながら、そう言い訳をすると、
隣でやなみんが「申し訳ありません。山木さん。誤報をお伝えしてしまって。ですが、そう言ううっかりなあたりも、私の子供らしい部分と受け入れて頂けると・・・」と言っていた。
うん、そう言う、うっかりな部分もかわいいと思うけど、そんなうっかりやなみんのせいで、私、今、むっちゃ針のむしろなのも忘れないでね・・・。
しかし。これだけ私は針のむしろにされてるのに、まだ、愛香ちゃんは怒りが収まってないらしい。

「挙句、やなみんに『今見ている夢が、お2人の潜在意識が望んでいる夢なのかもしれません』とか言われるしさ・・・。私、ホント、自分が気持ち悪くてしょーがなかったんだから!!」
「えっと・・・・」
「こんな、ど変態で、きっしょく悪い、人間のクズみたいな夢を・・・・私の潜在意識が望んでるとか・・・・本当、病むかと思ったんだから、私!!!」
「」

あぁ・・・・なに、この、針のむしろ。いや、むしろ、磔獄門。
あまりの容赦ない弾劾っぷりに、さすがに憐れに思ったのか・・・・ももち先輩が
「えっと、愛香ちゃん。お怒りはごもっともだけど、それぐらいにしてあげて。愛香ちゃんの目の前で、ど変態で、きっしょく悪い、人間のクズが、ガチ凹みしてるから」・・・と、救済なのか、追い打ちなのか解らないフォローを入れてくれた。
ってゆっか、愛香ちゃんの発言も辛いけど、地味に向こうの方から聞こえてくる、ちぃたちの「梨沙ちゃん、ホント、キモイ・・・」って呟きも、何気に胸に刺さるんですけど・・・。
うぅううう。私は別に何も悪い事してないのに!!単に、観たい夢を、毎晩思い描いていただけなのに・・・・なんでこんなに、disられなきゃいけないのか。解せぬ!!

こうして。
愛香ちゃんに完膚なきまでに言い負かされ、膝から崩れ落ちている私に「だ、大丈夫?梨沙ちゃん・・・・??」と、上から、心配そうに覗きこんでくる、ももち先輩。・・・・そうですね。大丈夫です。ちょっと、死にたいです。
つーか、ツライ・・・。
なんで私がこんな、隠してたエロ本をお母さんに見つかってしまった、中学生男子の様な辱めを受けなきゃいけないのか・・・。

まぁでも・・・私は思った。
何はともあれ、これで謎は解けた気がした。
あれだけ私が道重さんの事を、毎晩毎晩思っていたのに、全く夢に出て来なかった理由。
やなみんに「想いが足りない」って言われて、むっちゃ悔しかったけど、私の想いはちゃんと届いてたんだ。
ちゃんと、夢に現れてたんだ!!・・・・・まなかちゃんの方に。
とりあえず、私のちゃゆ愛は十分だった事が証明され、ちゃゆヲタとしては、少なからず満足ではあった。

なるほど。私の望んだ夢は、愛香ちゃんの方の夢に現れてたワケね。そっかそっか。なるほど。
って事は、そっか。逆に、私の方に、まなかちゃんの・・・・。




・・・・・・そう。心の中で呟いた瞬間。




私は思わず「・・・・え?」と、固まってしまった。
あまりに愛香ちゃんに、道重さんの夢をdisられすぎて、こっちのパターンをこれっぽっちも考えてなかったけど・・・・。
そう。やなみんは言ってた。甲の夢が乙に。乙の夢が甲に。・・・・って言う事はだよ?私の夢が愛香ちゃんに。

――そして。

私がそう考えたのと、殆ど同じぐらいのタイミングだった。
その言葉を、舞ちゃんが、無邪気すぎる笑顔で口にしたんだった。

「あ、じゃぁ!!って事はさ!!逆に、愛香ちゃんの夢は、梨沙ちゃんが観てたって事だよね?!」
「・・・・・・・・え?」

余りの私に対する、激おこからか、
愛香ちゃんも、私同様、こっちのパターンをこれっぽっちも考えていなかったんだろう。
舞ちゃんがサラっと言った一言に、一瞬なんの事か理解出来なかったらしく、愛香ちゃんは「え?」と、眉をしかめていた。
そして。そのまま、5秒ほどの間があったあと・・・・。


「!!!!!!?」


愛香ちゃんはハッとした様子で目を見開くと、口元を慌てて両手で押さえた。
そして、その表情は次第に真っ赤になり・・・・慌てた様子で、私の方を凝視してきた。
そんな真っ赤になっている愛香ちゃんと、視線が合い、思わず私も瞬間的に、顔が赤くなってしまう。

そう。そうなんだよ!!
私の観たかった夢が、愛香ちゃんの夢になって現れたって事は、
つまり、逆に、私の見ていた、あれらの夢は・・・・・・・・・・。

お互い。真っ赤になったまま、見つめ合う。・・・10秒ほど。
どんな夢を見ていたのか、確認されたワケではないけれど。私まで真っ赤になっている様子を見て、愛香ちゃんは状況を把握したようだった。

一方。そんな私たちの動揺など、露知らず。
ちぃは舞ちゃんの言葉を聞き、能天気な笑顔で・・・
「あ、そっか!!確かにそうだね、舞ちゃん!!・・・・ねぇ、梨沙ちゃん!!梨沙ちゃんはどんな夢、見たの?!」
と、むっちゃ無邪気に問いかけて来たんだ。

「え!?・・・・・え、えーーーと」

こういう時。私は本当に誤魔化すのがヘタすぎて、すぐにパニクってしまう。
なんて言うべきか、明らかに狼狽した様子で「あ、っと。私の観た夢は・・・・」と口ごもっていると、

「工藤さんでしょ?!」
「・・・・・・へ?」
「もう、梨沙ちゃん。ズルイ!工藤さんの夢、まーが観たかったのにぃ〜」

・・・・と言って、愛香ちゃんが笑いながら、私に寄り添って来たんだ。
そして。愛香ちゃんはちぃたちにニコニコな笑顔を向けながら、こっそりと、私のTシャツの裾を引っ張った。

「・・・・・・・あ。うん!そう!!工藤さんの夢!!ファ、ファルスみたいな、工藤さん!!」
「いいなぁ。ファルスな工藤さんに、まーも、夢の中で守られたかったなぁ」
「いや〜。ホント、カッコ良かったね!!夢の中の工藤さん!!」

・・・・・・・正直。
この時、私はむっちゃ動揺してパニくっていたんだけど。
愛香ちゃんの誤魔化し演技があまりにも自然で・・・みんな全く、疑っている様子はなかった。
ちぃや舞ちゃんや結は、「へーー!!リリウムの夢、いいなぁ〜!!」と羨ましがってるし、
あのももち先輩も、「愛香ちゃんはヘンタイな夢、見せられたのに。梨沙ちゃんはリリウムな夢とか、ズルいわ〜」と、笑っていた。

凄い。さすが愛香ちゃん・・・・演技派すぎる。
みんな全く、疑っている様子がないもんなぁ、凄いや、愛香ちゃん・・・。
・・・・・・・・・・・。
そして、私も。今まで全く気付いていなかった。愛香ちゃんの想いなんて・・・・これっぽっちも、知らなかった。




その後――。
とりあえずダンスレッスンに、ひと段落をつけたあと。
私は愛香ちゃんに手を引っ張られ、人気のなさそうな場所まで、強制連行をされた。
私の手首を握る、愛香ちゃんの手は、心なしか微かに震え、汗ばんでいるような気がした・・・。

「ここなら、誰も来ないよね」

そう呟くと、愛香ちゃんは私の手首を離した。
どうやら、連れて来られた場所は、資材置き場の部屋の様だった。
マイクスタンドとか、アンプとかが、そこら中に積まれ、置かれていた。

まなかちゃんはガチャっと部屋の扉を閉める。
ふぅと小さく息を吐くと、トントンと落ち着かない様子でつま先を鳴らした。
そして、私の目を見ると、ゆっくりと問いかけて来たんだ。

「ねぇ。梨沙ちゃんが毎日観てた夢って・・・・私と梨沙ちゃんが、デートする夢・・・だったんでしょ?」
「え?・・・・あ・・・えっと・・・・その・・・・はい。」

ストレートすぎる質問に、私はなんだか気後れして、若干口ごもってしまう。
でも、ここに来て、観てた夢を今更隠してもしょーがないし・・・。
私は素直にコクリと頷いたあと、恐る恐る、愛香ちゃんへと問いかけたんだ。

「私ね。毎日、夢で、愛香ちゃんとデートしてた。あの・・・すっごいラブラブで、恋人みたい・・・・ううん・・・・恋人そのものだった」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あのさ、愛香ちゃん。どうして愛香ちゃんは、その・・・・私と・・・・デートする・・・夢を・・・・」

なんだか言葉尻が弱くなってしまう。
その瞬間、愛香ちゃんは、ほんのちょっとイラっとした表情を覗かせた。
そして「・・・・・そんなの、聞かなくても解るじゃん・・・」と呟き、
言葉尻の弱い私とは対照的に、私を正面に見据えた後・・・・はっきりと、堂々と、凛とした口調で、私にこう告げたんだ。

「好きだから」
「・・・・・・・・」
「ずーっと好きだったの、梨沙ちゃんのことが!!」
「まなか・・・ちゃん・・・・」
「好きなの!!好きだったの!!なのに、なんなの!?人の気も知らないで!ずっとずっと好きだったのに!!バカ!!変態!!ど変態!!」

いえ!?
「好き」って告白されたと思ったら・・・。
今度は急に、愛香ちゃんにむっちゃ、disられ始めたんだけど?!

「ちょ・・・ちょっと待って!!なに!?なんでいきなり、キレてるの!?愛香ちゃん!?」
「キレるよ!!キレるに決まってるでしょ!?私は梨沙ちゃんが好きで、2人で大通公園でデートしたいとか、夜景観に行きたいとか、毎晩、いっぱいいっぱい考えてたの!!」
「愛香ちゃん・・・・」
「・・・・なのに。肝心の好きな人は、夜な夜な、道重さんとの変態妄想を私の夢に垂れ流しとか!!なにこれ!!酷すぎ!!ホント、最低!!」」

なんか。よっぽど腹に据えかねてたみたいで・・・。
愛香ちゃんはそれはもう、完全にキレまくりで、私に対して一方的に捲し立てきた。こ、怖い・・・。
で、でもさ。むっちゃ怒ってるけど、別に私も、愛香ちゃんの夢に道重さんの妄想を、好きで垂れ流してたワケではないし!!
それどころか、勝手に脳内妄想を拡散された私も、どちらかと言うと、被害者側の人間だと思うんだけど・・・。

だけど。
そんな言い訳はもう、聞く耳持たないらしい。

「馬鹿!変態!!クズ!!クズ!!どクズ!!人間の底辺!!」

と・・・・散々の言われ様。
こんなにブチギレ状態の愛香ちゃん、初めてすぎて、もう、どうすればいいのか解らないんだけど!!
黒大福、怖すぎる!!
もはや、私は何に対して謝ってるのかさっぱりわからないけど、とりあえず
「ごめん!!本当にごめん!!謝ります!!スミマセン、まなかさん!!!」と、ひたすらに懇願する。
もう、山木さんのヒットポイントはゼロなので、ホント、勘弁してください!!!もう、許してくださいってば!!

・・・・・・すると。

私の懇願が効いたのか?単に、散々罵声を叩きつけて、ちょっとスッキリしたのか・・・。
愛香ちゃんはやがて、「ハァ・・・・」とため息を吐き、俄かに言葉を止めた。

「ま・・・・・・愛香ちゃん?」

急に罵声が止み、私が恐る恐る、愛香ちゃんを見ると、
さっきまでの激おこな様子は消え、愛香ちゃんはいつもの愛らしい穏やかな表情で、私を見つめていた。
そして。ゆっくりと、落ち着いた口調で、私にこう言ったんだ。

「最初の頃はね。毎日、夢に道重さんばっかり出て来てた。それも、気持ち悪い妄想夢ばっかり・・・」
「あ・・・うん・・・。解ってる。えと、、ごめん」
「でもね。途中から、その夢が、変わったの!!」
「・・・・・・・・・・・へ?」

ちょっと頬を紅潮させて。
愛香ちゃんは、なんだか、すごく、嬉しそうに笑っていた。
幸せの四葉のクローバーを見つけた小学生とか、なんとなく、こーゆー顔で笑いそうだなって、私は思った。

「ある日を境に、ね。道重さんが夢に出なくなって・・・・。で、代わりに私は、毎日、夢で梨沙ちゃんとデートしてた」
「・・・・・・・・・あっ」
「私、なまら嬉しかったんだぁ〜。ようやく自分の望んだ夢が観れるようになったんだって!!・・・・・でも。本当は。そうじゃなかったんだよね?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「あれは、まーが望んだ夢じゃなかった。・・・・あれは――」

そう言うと・・・。
愛香ちゃんは近くに置かれていたアンプの上に、チョコンと腰をかけた。
そして、私の顔を見上げると、クスクスっと笑顔を覗かせたんだ。

「楽しかった〜。箱根に温泉旅行!!・・・本当に、幸せだった」
「愛香ちゃん・・・・」
「あ、でも。田んぼにカエルを捕りに行ったのは、しょーじき、ちょっと、気持ち悪かったけど・・・」
「・・・・え?!なんで!?気持ち悪くないよ!!サイコーじゃん、カエル捕り!!」
「気持ち悪いよぉ〜!!ってゆっか、本当、梨沙ちゃんって、色々気持ち悪い!!」

そう言って、愛香ちゃんは、ちょっとだけ意地悪そうな笑みを浮かべた。
一方、私は、そんな愛香ちゃんにムキになって「なんで!!カエルかわいいじゃん!!絶対カワイイ!!」とプンスカしていた。
その瞬間・・・・。



――――――――――。



私の頬に、優しく手が触れた。
愛香ちゃんが、アンプから僅かに腰を浮かせると、
柔らかな髪の毛の感触が、私の鼻先を撫で、そして・・・私の唇に、柔らかくて、暖かな感触が伝わった。

「・・・・・・・・・・っ!!!」

本当に一瞬だった・・・。
でも、その感触はハッキリと、唇に残っていた。
それは夢ではない。夢なんかじゃない。現実の熱。
愛香ちゃんの体温を感じる、本当に、一瞬の・・・・・・キス。

私は震える指先で、自分の唇をなぞった。
目視することは出来ないけど。間違いなく、自分の顔は今、真っ赤になっているだろうなと思った。

「・・・・愛香ちゃん・・・・今の・・・・」
「―――――3回目。」
「え・・・・?」
「夢で2回したから、これで3回目だよ?・・・・・でも、現実では初めてだね。・・・キス」
「・・・・・・・・・・あ」
「フフフ。でも、梨沙ちゃんは、もっと前から私との夢を見てたから・・・。もう、10回ぐらいしてるのかな?キス。・・・ズルいなぁ・・・梨沙ちゃん」

いつものクセ。愛香ちゃんは舌でペロっと唇を舐める。
そして、随分と照れくさそうにしながら、私の顔を見て微笑んだ。
一方。そんな愛香ちゃんの言葉を聞き。私は・・・・。

「あ・・・いや。多分、50回ぐらいは、キスしてるかも・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・は??50回??」
「いや、もしかすると、もっとかも?夢の中の愛香ちゃん、すっごい積極的だし。・・・・ってゆっか、エロいし。1回の夢で10回ぐらいキスするのもザラだし」
「・・・・・・ちょ!!ちょっと待ってぇえ?!梨沙ちゃん??!」

そう。今までずーーーーっと、愛香ちゃんに主導権を握られていたけど。
私の発言に、初めて愛香ちゃんが、あわわわと、し出したのが解った!!なんか、すっごい、真っ赤になってるし!!
そんな愛香ちゃんを見て、私は意地悪い表情でフフ・・・とほくそ笑むと、今までの仕返しとばかりに、徹底攻撃をしかけた!!

「いやーー。特に4日目の夢!!あれはエロかったね!!・・・・だって、夢が始まったらさ、いきなり、2人で裸でベッドで抱き合ってる状態とか。ホント、エロかったぁ〜!!」
「ちょっと!!梨沙ちゃん!!ヤダ!!」
「親友の愛香ちゃん相手に、あんなエロエロでグデグデで汁だくな夢を見るとか・・・私ってサイテー!!って、物凄い罪悪感に苛まされたんだけど。そっか、あれ、愛香ちゃんの夢だったんだ。そっか〜ビックリ!!」
「違っ!!!あれはだって!!やなみんが「想いが足りないから夢が観れない」って言うから!!あれぐらい、激しい妄想しないとダメなのかと思ったのぉ!!!」

むっちゃムキになって反論する愛香ちゃんが、チョーかわいい!!
うんうん、解る解る。私も4日目はそうだったわ〜。
涙目で真っ赤になり、恥ずかしそうに俯く愛香ちゃんは、完全に『お母さんに隠してたエロ本を見つかった、中学生男子』の様で、実に満足!!
まぁ、仕返しはこれぐらいでいっかなぁ〜と思い、「よしよし」と愛香ちゃんの頭を撫でてあげた。

「梨沙ちゃ〜〜〜〜ん」
「ごめんね。ちょっと、イジメちゃった」
「・・・・・・・私も。さっき酷い事、いっぱい言って、ごめんなさい」
「ううん。いいよ。お互い様じゃん」

私は笑う。
大丈夫だよ。別に気にしてないし。愛香ちゃんが悪くないって、解ってる。
ってゆっか。今回の騒動。大体、やなみんのせい!!

――――――――。

でも。まぁ・・・・。
やなみんのお陰・・・・とも、言えるのかな??





愛香ちゃんの顔を見つめる。
どうしたの?って表情で、ちょこっと首を傾げる愛香ちゃんに、私はそっと、右手を差し出した。

「・・・・・梨沙ちゃん?」
「ねぇ、今度さ。2人で夜景、観に行こうよ!!」
「え?」
「あとは、北海道旅行もいいかな?大通公園!!あーでも、休みが取れないかな?北海道は・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「あ、じゃぁ。近場でカエル!!カエルを捕りに行こうよ!!2人で、一緒に!!」
「梨沙ちゃん―――。」

咄嗟に、愛香ちゃんはクスっと笑みをこぼした。
そして、ちょっと嬉しそうな表情で、暫く目を伏せた後・・・
いたずらな笑顔で、こう、答えたんだ。

「そだね。色々行こっ!!・・・・・でも、カエルはいいかな。気持ち悪いし」
「そんな事ないよぉ!カエル、カワイイよ!?愛香ちゃんと同じぐらい、カワイイよ?」
「うっそ!!私、カエルレベルなの??ショック!!」

愛香ちゃんの、いつもの、おちゃらけた口調。
そして・・・・。

「まぁ、でも。梨沙ちゃんがどーしても、行きたいならしょーがないなぁ・・・カエル捕り。一緒に行こっか?」

そう言って、愛香ちゃんは私の手を握りしめた。
そのあと、顔を数センチぐらいの距離まで近づけると、2人で顔を見合わせ、アハハと声を出して笑い合った。
「じゃぁ、まずは2人で、カエル捕りだね!!愛香ちゃん!!」「えー。最初のデートがカエル捕りかぁ〜!!ロマンチックじゃないなぁ」
そんなやり取りをして、また、2人で声を出して笑ったんだった。

暫くの間。2人で笑いあった後、
私は「ふぅ・・・」と小さく息を吐くと、「ねぇ。あした。やなみんにさ、呪符、返そうよ」と、提案をした。
突然の言葉に、愛香ちゃんは「え?」と驚いた表情を見せたが・・・私は力強く頷き、言葉を続けた。

「だってさ。もう、いらないじゃん!!私たちには。・・・・・・・・そうでしょ?」

もう、夢でデートする必要なんてない。
だってデートしたければ言ってくれればいい。
時間の許す限り・・・・・・私はいくらでも、側にいるから。

「――――そう、だね」

気持ちを察した様に・・・・
愛香ちゃんは目を細めると、ちょっと照れくさそうに、はにかんだ。
そして、私の右腕に、そっと、左腕を絡めた。

「そだね。梨沙ちゃん。明日、やなみんに返そっか」
「うん!!」
「でも、返しちゃっていいの?まだ、肝心の道重さんの夢、見れてないんでしょ?梨沙ちゃん」
「あ!そう言えば!!・・・・・・・・・・えっと。やなみんに返す前に、私に愛香ちゃんの呪符、貸してくれない?とりあえず、2枚を使って、道重さんの夢を見てから・・・」
「梨〜沙〜ちゃ〜〜〜ん!!」
「あ。アハハ。じょ、冗談です・・・・ハイ・・・・」

うん。まぁ・・・。
しょーじき、道重さんの夢を見れず仕舞いなのは心残りだけど・・・。
でも。まぁ、見た所で、しょせん、夢だしね!!


私は互いの腕を絡めたまま、右手で愛香ちゃんの左手を、ギュッと握りしめる。
およ?っとした表情を見せた後、愛香ちゃんは私をチラっと垣間見て、そして・・・ギュッと力強く握り返してきたんだ。
そんな愛香ちゃんの手は・・・・柔らかくって、暖かかった。

「じゃ。戻ろっか?まなかちゃん」
「・・・・・・・・うん!!そうだね!!」

私は握りしめた愛香ちゃんの手を引き、みんなの元へ戻った。
暖かな手の感触と、伝わってくる熱を感じながら・・・。
ちゃんと明日、やなみんに、呪符を返さなきゃな・・・・そう頭の中で、忘れないよう、何度も繰り返した。




<夢に見るほど愛してる! END>



追伸:

ちなみに。
翌日、やなみんにお返しした呪符は、
今度はちぃと舞ちゃんが「舞たちも使いたい!夢を入れ替えてみたい!」と言って、レンタルをした。
そして、2人は互いに「アイスをお腹いっぱい食べる夢」と「メロンをお腹いっぱい食べる夢」を、交換こしたのであった。
めでたしめでたし。

川*∂_)∂リ ノリ*´⊃´リ<おぜちぃ、マジ、ぐう聖だわーーー!!!