えりかの 大阪2DAYS 日記



ここNHK大阪ホール・・・。
わたし、梅田えりかの最後の2日間が始まった。
そう。わたしは10月25日をもって・・・℃‐uteを卒業する事が決まっていた。


★10月24日・昼 ★ えりかの ブルーベリー 日記 ★


「はぁ・・・あと2日間かぁ〜。えりとこうして一緒にいるのも――。」
「舞美?」

お昼のケータリングで、わたしがブルーベリーヨーグルトを取ろうとしていると、
その後ろから、舞美がそんな事を呟きながら、わたしの隣へとやってきたわ。
お皿には、パンとエビマヨサラダがちょぼっと乗ってるだけ。
ゾウアザラシ並みに大食漢の舞美なのに・・・そんなちょっとで平気なのかな?
そう思って、じっとお皿を見ていると・・・舞美はその目線に気づいたみたいで、ニコッと微笑んで、両肩をすくめた。

「最後の2日間だと思うと。なんか緊張しちゃって、ご飯が胃を通らないよ」
「舞美・・・」
「ホントは食べなきゃいけないんだけどね」

すると。
わたしと舞美の隣で、不意に「あ・・・」と言う声が漏れ聞こえた。
振り返ると、お皿にきゅうりをチョー山積みにしていた愛理が、『B型、空気読めなくてスンマセン』って表情を浮かべながら、
きゅうりを半分、ケータリングへと戻していたわ・・・。
ヤダ。別に戻さなくてもいいのに、愛理。
残っちゃうとケータリングのおばちゃんに悪いもん。愛理は空気なんて読まずに、たらふく好きなだけ、きゅうりを食べてっ。

「なんか。あたしも舞美と一緒で、ご飯が胃を通らなくてさ・・・」
「えり・・・」
「だからヨーグルトをいっぱい食べてるの。知ってる?舞美。ブルーベリーって、目にVERYいいんだよ?」
「へぇ?そうなんだ・・・」
「うん。こないだ、熊井ちゃんが得意気に言ってた!」

そう。お昼の『みのもんた』ばりの、しったか口調で、
「ブルーベリーは目にVERYいいんだよ!」と、こないだ楽屋見舞いに来た熊井ちゃんが、得意気に語ってたっけな。
ゲキハロの受け売りなのに、まるで自分の手柄の様に得意気に・・・。
でも、受け売りって事は、逆に考えると『正しい知識』って事だから、安心できるよね。
前に熊井ちゃんから「茶巾絞りは和菓子の事だよ!」と、インチキ知識を教えてもらった千奈美は、
和菓子屋さんで「羊羹と落雁と・・・茶巾絞りください!」と自信たっぷりに言って、失笑の的だったらしいから・・・ね。
ホント、熊井ちゃん。恐ろしいオンナだわ・・・。

「そっか、目にVERYいいんだ・・・」

すると、舞美がわたしの隣で独り言のように呟いた。
そしてケータリングのお皿を手にし、ブルーベリーヨーグルトをお皿に掬っていったわ。
そんな舞美の横顔を見つめながら、わたしは、力強く頷いた。

「そう!目にVERYいいの!!だからあたしね、今日と明日は・・・ブルーベリーヨーグルト、いっぱい食べるね!舞美!!」

いっぱい食べて・・・目を良くして。
なんかもう。全ての景色をこの目に焼き付けて置きたいと思った!!!
ステージから見るお客さんの顔や、スタッフさんの表情。あと、メンバーの笑顔とか。
・・・・・・・・・・・・。
舞美の、真剣な横顔とか――。

目に焼き付けて置きたい事、いっぱいあるから。
今日と明日は、ブルーベリーヨーグルトをいっぱい食べて、目を良くしておかなきゃね!


わたしの隣では、立ったまま、お皿からブルーベリーヨーグルトをスプーンで掬って、口に含む舞美。
ゴクリと、小さく喉がなる。
「あ。おいしい・・・」
そう、小さく呟いてから・・・
舞美はわたしの顔を見て、ヨーグルトのように甘酸っぱ〜い笑顔を浮かべながら、笑いかけてくれたわ。

「なんか・・・目が良くなったからかな?」
「え?」
「いつもより、えりの顔。眩しく見えるよ?」
「ま、舞美・・・」

まるで初恋のキスの様な甘酸っぱい言葉。
胸がヨーグルトのように、ドロドロに溶けちゃいそう!!!
ま、舞美、あ、あたし・・・。あ、あたしの目にも・・・今日の舞美・・・い、いつもより・・・!!

わたしと舞美の見つめ合い。
ううん、見つめ愛!!
わたし忘れない!!絶対に忘れない!!
今日のこの日を、ずっと目に焼き付けておくね、舞美!!!ラブリー舞美!!!

すると――。

少女漫画の様な甘酸っぱい恋模様の、わたしと舞美の後ろで・・・。
わたしたちのやり取りなんて、露知らず。
空気を読めないB型のアレが、大声でケータリングのおばちゃんに呼びかけているのが聞こえたわ。

「スミマセーン。あたし、ブルーベリー食べれないんで、ストロベリーヨーグルトないですか〜?」

・・・・・・・。
うん、そうだね。愛理・・・。
わたし一生忘れないよ!!
舞美の心蕩けちゃいそうな甘酸っぱい言葉も忘れないし・・・。
愛理の空気の読めないB型属性も、ずっと一生、忘れないからね・・・あいりぃ・・・。


<読んで一句>

  ブルーベリー
  ベリーズブルーは
  梨沙子だっけ?

          Byえりか




★10月24日・夜★ えりかの メイド 日記★


「えりかちゃんとは、今日で最後のお泊りなんだねぇ・・・」

ポツリと呟いたのは、千聖だった。
24日のライブが終わり、
わたしたち6人はスタッフさんとご飯を食べ、大阪市内のホテルへと向かった。
そう。今夜がわたしと、大好きな℃-uteメンバーとの、ツアー先での最後のお泊りになる。

ホントは明日のライブに備えて、各々、自分の部屋でゆっくり休まなきゃダメなんだけど・・・。
今日はやっぱり、みんな1人ぼっちで寝るのがイヤみたい。
千聖は甘えるように舞美の腕にしがみついて「ねぇ、舞美ちゃん。今日はみんなで寝ようよ〜」とおねだりしているわ。
うふふ。千聖はカワイイわね。甘えん坊さんなんだから・・・。
舞美。わたし達の娘は、本当に純粋でカワイイ、天使の様な子に育ったわね。わたしたち夫婦の教育が良かったのね・・・舞美。
千聖が必死で舞美におねだりすると、舞美はスタッフさんから貰った、『わかさ生活のブルーベリーアイ』を口にしながら(すっかりブルーベリーが気に入ったみたい)、
にこやかな笑顔を浮かべて、千聖の肩をそっと抱き寄せたわ。
「そうだね・・・最後だもんね」
そして舞美は、わたしの方へ振り返ると「いいよね?えり?」と問いかけたわ。
えぇ・・・勿論よ、舞美。
最後の夜は舞美と2人きり・・・なんて思ったりもしたけれど。
わたしは℃‐ute!℃-uteの梅田えりか!!!!
最後の夜ぐらい・・・メンバーのみんなと一緒に、夜を過ごしたいよね!!!
それに舞美と2人きりの夜は、別に今日じゃなくても、この先も・・・なんてね!!うふふ、ヤダ、鼻血でそう!!

「じゃぁ、みんな!!ホテルについたら、わたしの部屋に集合ね!!!」

わたしは舞美直伝の爽やかガッツポーズで、メンバーみんなに答えたわ。
なっきぃも愛理もまいちゃんも、みんなチョー嬉しそうに「やったーーー!!!!」と大はしゃぎしている。
ふふ。ホント、カワイイんだから・・・みんな。
今日は6人最後の夜。賑やかで、楽しくて、ステキな思い出になりそうね・・・舞美!!!



・・・・・・・・と。思ったんだけど、なっ。



ホテルの1011号室。
ベッドに腰掛けるわたしと、部屋のソファに座っている、愛理と千聖とまいちゃん。
そして、わたしたちの視線を浴びながら、残念そうな表情で立ち尽くしている舞美・・・。

「えっと、みんなに残念なお知らせが・・・」

そう言って舞美は、悪夢の中野サンプラザ(2日目)を思い起こさせる表情で、
私たちにマネージャーさんからの言葉を告げたわ。

「えっと・・・。なっきぃはインフルエンザ蔓延予防の為、部屋で軟禁。お泊り会は欠席です」
「えぇええ〜〜〜〜〜!!」

千聖が眉間に皺を寄せて悲鳴をあげる。
何かしら、このデジャビュ!中野の2日目もこんな展開だったわ・・・。
でも、考えて見ればそうよね。アレから1週間しか経ってないから、そう、なるよね・・・そう言えば。
なっきぃ。なんであなたは、そう言う運命の人なの?なっきぃ・・・。

「どうする?なっきぃに悪いから・・・お泊り会やめる?」

わたしが舞美に問いかけると、舞美は「ううん。お泊り会はするよ」と答えた。
そして、なっきぃからメンバーへ・・・伝言を預かったからと言って、オレンヂ色のレターセットを取り出したわ。
あ!って言うか、それ。さっきマネージャーさんが、ちょ〜!!アルコール消毒ふりかけてたヤツじゃない?
なっきぃからの手紙だったんだ・・・。凄いね、なっきぃ。完全にスタッフさんからバイキン扱いされてるね・・・。
まぁ、ベリーズのアレっぷりを見ると、気持ちは解らなくはないけど。ってゆっかあのグループ、バランバランのくせに、こういう時だけ仲良しだよね・・・?

舞美はオレンヂ色の手紙を取り出すと、小さく息を吐き、
「なっきぃから手紙を預かったんだけど・・・読むね?」と言ったわ。
わたしたちが神妙な面持ちでコクリと頷くと、舞美はゆっくりと、その手紙を音読した。

「『みんな、なっきぃだよ。私は・・・ベリーズ菌に冒されて、みんなと一緒にはお泊り出来ません』」

ベリーズ菌・・・。
インフルエンザは何故か、℃‐uteスタッフの間では、ベリーズ菌と呼ばれていた。
そして「インフルエンザ」と呼ばれるよりも「ベリーズ菌」と呼ばれた方が、その脅威が10倍増しぐらいで、解りやすい気がした。

「『でも、それは私の宿星だから仕方が無いよね。えりかちゃんの卒業を前に・・・私1人の犠牲で済んで・・・本当に良かった!!』」
「なっきぃ・・・・」
「『みんな。私の事は気にしないで、えりかちゃんと最後の楽しい夜を過ごしてね!!』」

な、な、なっきぃ・・・!!!!
あなたはなんて優しい子なの、なっきぃ。1人で犠牲になり、わたしの卒業を守ってくれたのね!!
ありがとう。孤独で優しいあなたには、天孤星の宿星を与えるわ、なっきぃ!!!天魁星・舞美を守ってあげてね、なっきぃ!!!

すると・・・。

「みんな!なっきぃの分まで・・・・・・力いっぱい、泊まり合おうね!!」

わたしの想いが通じたのか、舞美が目に涙を浮かべながら、そう叫んだわ!!
そうね!その通りだわ、舞美!!みんなで力の限り、泊まり合いましょう!!!
『力いっぱい泊まり合う』の日本語の意味がよく解らないけど、舞美が言うなら、力の限りで泊まり合うわ!!!

みんなで力いっぱい泊まり合うべく、「えいえいおー!」と勝鬨をあげると、
不意に愛理が、「あ!それじゃぁさ・・・あたし・・・いい考えあるよ!!」と言って、自分のカバンをガサゴソと漁り出したわ。
そして、愛理が取り出したモノは・・・なっきぃのファイバータオル(メイドバージョン)だった。
「なっきぃの代わりに、これ、枕に巻こうよ!!!」
そう言って、舞美にファイバータオルを差し出す愛理。
・・・・・・・・・・。
ってゆっか、なんでなっきぃのファイバータオル(メイド)が、フツーにカバンの中に入ってるの?愛理・・・。
でも、舞美はそこまで深くは考えてないらしく「それ、いい考えだね!!ありがとう、愛理!!」と言ってファイバータオルを受け取ったわ。
そして、なっきのファイバータオルを枕に巻きつける舞美。

「ほら!みんな!なっきぃはここにいるよ!!」

そう言って爽やかな笑顔を浮かべる舞美。
そうだね、ここにいるね、舞美!!!
なんか・・・枕にファイバータオル(メイド)がまき付けてあって、ただのヲタ部屋みたいになってるけど・・・。
まいちゃんとかぶっちゃけ、ちょっとドン引きしてるけど・・・。
なっきぃはここにいる!!なっきぃはここにいるよ!!!舞美!!!

「なっきぃ!!一緒に遊ぼう!!!」

そう言って、いの一番になっきぃ枕に飛び掛ったのは千聖だった。
なっきぃ枕のみぞおちにエルボーを食らわせ、首をスリーパーホールドを決め込み、
そのまま、投げっぱなしジャーマンで投げ捨てると、当たり前のように枕投げ大会に突入する千聖とまいちゃん。
愛理は相変わらず、いつぞやの枕投げ大会のように、カッパの様な怪しい動きで逃げ惑っているわ。

「よし!!じゃぁ、えり。あたしたちも一緒に、枕投げ・・・参加しようよ!!」

そう言って。
隣にいた舞美は、不意にわたしの手を握り締めてくれた。
そうだね、舞美――。
わたしは普段は・・・非戦闘員のハト派だけど・・・今日は最後の夜だもんね。
舞美と一緒なら、舞美と力を併せてなら・・・戦いに参加するのも悪くないわね!!!
今日の私は巴御前!!愛しい義仲様と一緒に、夜が明けるまで戦うわ!!!

・・・・・・・・・。

こうして、私たち5人は。
夜が更けて眠くなるまで、なっきぃ枕を投げつけて遊んだわ。
最高に楽しい夜。本当にステキな、最後の夜だった・・・。
子供のようにおおはしゃぎで遊んで、最後はみんなでベッドの上に横たわって、眠りについた。
眠ってる間に、5回ぐらい寝ぼけた千聖に殴られたけど・・・それもいい、思い出。



   ×   ×   ×



そして夜が明けて、翌日・・・。
わたしたち5人は、みんなで仲良くワイワイ騒ぎながら朝食会場へ向かうと・・・。
ホテルの朝食会場で、なっきぃに会った。

「あ、おはよう!!なっきぃ!!!!」

舞美が『ブルーベリーのジャムパン』をもぐもぐ食べながら、
爽やかな笑顔でなっきぃに声をかけると、

「・・・・おはよう、舞美ちゃん」

昨日とは打って変わって、なんだか体調の悪そうななっきぃ。
妙に顔が疲れてる・・・。
そんななっきぃを見て、わたしは急激に不安になる。
や、やだ。も、もしかして。ベリーズ菌が再発しちゃったんじゃない?!!なっきぃ?!!!

「だ、大丈夫?なんか疲れてない?なっきぃ?」
「うん。熱とかはないんだけど・・・ただ」
「ただ?」
「なんか昨日の夜、みぞおちが痛くなったり・・・あと、なんか、首を絞められたような苦しさが走ったり。投げられて頭ブツけたように痛かったり・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「なんだろう。あの部屋、お化けでもいたのかな?怖くて寝れなかったよ」

そう言って、疲れ切った様子でションボリしているなっきぃ。
ってか。
みぞおちが痛くなったり、首が絞められたり、投げられたり・・・って・・・もしかして・・・。
すると。なっきぃの言葉から何1つ感づく様子も無い、おめでたい舞美と千聖が、
「え〜!それ、絶対幽霊だよ!!怖いねー!!」と叫び、体を震わせている。

・・・・・・・。
うん、そうだね。怖いね、舞美。
幽霊って言うか・・・黒魔術って感じで・・・。

そんな感じで、わたしが恐怖に慄いた様子で、なっきぃたちを見つめていると。
わたしの隣にいた愛理が、わたしの耳元でポツリとつぶやいたんだ。

「メイドタオル怖いね、えりかちゃん。・・・・冥土なだけに」

・・・あ、愛理ぃ。
この展開で、ダジャレ落ちで終えますか?愛理ぃ〜。空気読んで、愛理ぃ〜!!
うん。でも。とりあえず、そのなっきぃファイバータオル。
出来れば東京に帰ったら、近くの神社に奉納して、お祓いしてもらってね。愛理・・・。


<読んで一句>

  メイドタオル
  冥土の土産に  
  購入してね♪


         Byえりか






★10月25日★ えりかの ファイナル 日記★


「これが最後のライブになるのかぁ、あたし・・・」

ステージセットの階段に座り込み、誰もいない会場を見つめた。
夜公演前。ファイナル直前。
もう少しで入場口が開き、わたしの最後のステージを見届けに、たくさんのお客さんが駆けつけてくれるんだ。
すると。
感慨に耽るあたしの右隣に座りながら、舞美も『飲むブルーベリーヨーグルト』を口に含みながら、ポツリと呟いたんだ。

「あたしも・・・これが最後なんだね・・・」
「え?」
「えりと一緒の℃‐uteのステージは、これで最後・・・」
「・・・・・・・」
「リーダーがこんな事言っちゃダメなのは解ってるけど。出来れば卒業なんてしないでさ、ずっと、一緒にステージに居たかったな」
「舞美・・・?」

舞美がこんな事言うなんて思わなかったから、
わたしはなんて答えればいいのか解らなくて、ただ、言葉を詰まらせるしかなかった。
マジメで一生懸命で、何事にも前向きな舞美が口にした、初めてのわたしへのワガママ。
それは蕩けるように甘くて、鼻にツンとくるぐらいに酸っぱくて・・・胸の奥が焦がされるように、ほろ苦かった。

なんだか泣きたくなり・・・。
わたしは階段に座り込んだまま、両膝を抱えた。
舞美が心配そうにわたしの方を顧みたけど、悲しい表情を見られたくなくって、そのまま両膝に顔を埋めた。
誰もいないステージと客席は、シーンと静まり返る。隣で舞美がフゥと小さく息を吐く音だけが、耳に響いた。
顔を膝にうずめてるから、舞美の様子は見えないけど・・・見なくても解る。きっと舞美は、今、真っ直ぐな目で天井の明りを見つめていると思った。

「ねぇ、えり」
「なに?」
「なんか。こんなに静かだとさ。時が止まってるみたいじゃない?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「本当に、時間なんて止まっちゃえばいいのに・・・」

にわかに、わたしの手に舞美の手が触れる。
その熱にびっくりして顔を上げると、すぐ側に優しく微笑む舞美の顔があって、心臓が止まるかと思った。
右手に伝わる暖かな体温。ギュッと手を握り返すと、舞美の笑顔がくしゃっとなった。

「えり。あたしさ――」
「うん・・・」
「ずっとえりに・・・伝えたかった事が・・・あるんだ」
「まい・・・み?」
「あたしね、えりのこと・・・」

ゆっくりと口を開く舞美。
ドキドキと早まってゆく鼓動と反比例して、
それは、まるでスローモーションの様に見えた。
舞美の口から紡がれようとする言葉。
スローモーションから、そのまま、時が止まる様な感覚を覚えながら・・・わたしは舞美の言葉に耳を傾けた。











その瞬間・・・だった。











「オマエのきゅうりは戴いたケペ〜〜〜!!!!」
「待てぇえええ!!!あいりっぱ。御用だーーーー!!!!」

そう・・・。
今までのコバルト文庫の様な、淡い恋愛ドラマを一蹴するかの様な、コントっぷり。
緑のレッスン用スウェットの上下を着込んだ愛理が、頭にきゅうりが山盛りに積まれたお皿(バカラ製)を乗せ、
カッパダンスを踊りながら、突然、ステージ上に現れたのだった。


わたしたちの時は、なんかもう・・・別の意味で止まった。


ってゆっか、さっさと時を早送りして、ぶっ飛ばしてしまいたいレベルだった・・・。
でも、それは愛理も同じだったらしい。
あまりにステージ上が静かだった為、まさか、わたしと舞美が階段に座ってる(しかも、超〜いい感じで)と思わなかったらしく、
手を握り合っていい感じなわたしと舞美を見つけるなり、愛理は頭に皿を乗っけたまま、「あれ?」と呟き、目に見えて気まずそうにフリーズしたのだった。
そして。そんなフリーズする愛理を発見して「カッパめ〜!御用だ〜!!!」と言って、モップを片手に駆けつけてきた、千聖。
そんな千聖も、ご多分に漏れず、手を握り合うわたしと舞美の存在を確認するや否や「あ・・・・」と呟き、その場にフリーズした。
うん。なんかもう。なんていうのかな?
マ・ジ・デ!!ど・っ・か・行・っ・て!!!あ・ん・た・らーーーー!!!!




「あ〜〜〜。あっと・・・・きゅ、きゅうり食べる?えりかちゃん?」

明らかに気まずすぎる空気。
そんな空気に、最初に言葉のメスを入れたのは愛理だった。
うん、気まずい空気を打破するにしても、その問いかけはどーなのよ?愛理・・・。
わたしは引きつり笑いを浮かべたまま、「うん、いらない・・・」と答えた。

「そ、それよりさ。なんで千聖は、愛理を追ってたの?」

立ち直りようも無い気まずさに、
舞美がどうしようもなくなって、さりげなくわたしの手を離し、千聖に問いかけた。
そうだね、舞美。これ以上のラブリーな展開は、この空気じゃムリだよね、舞美。諦めるしかないよね、舞美。
すると、千聖は「あ・・・あのね。アイリッパはカッパだから。生け捕って島根県で売ると、1000万円の懸賞金が貰えるんだよ・・・アハハ」と答えたわ。
そっか。アイリッパを島根県で売ると1000万円貰えるんだ。そっか・・・。

「じゃぁ・・・・・・・・。おとなしく生け捕られてもらおうか?!!アイリッパぁあああ!!」

わたしがヤケになって、そう叫び立ち上がると、
愛理は心の底から身の危険を感じたらしく、自分がカッパキャラであることを忘れて、一目散に全力ダッシュでステージを逃げ出した。
普段はわたしと双璧で運動神経の悪い愛理だけど、その時の素早さは、カモシカの足を持つ舞美ですら「愛理、早っ!」と感嘆の声をあげた程だった。
そして、愛理が逃げ出したと同時に、千聖もこの気まずい空気を逃れるチャンスとばかりに・・・

「ま、待てーー!アイリッパ!!!ご、御用だぁああああ!!!」

と叫びながら、ステージ上を風のように撤収して行ったわ。
もう!ホントになんなの?あの2人は!!!



そんな、空気ブレイカーの2人が去り、再び静寂を取り戻したステージ上。
一瞬賑やかになった分だけ、さっきよりもずっと、2人きりのステージは静かな気がして、小さく息を呑んだ。

「まったくぅ。今日で℃‐uteを離れるのが心配になっちゃうよ・・・」
「あはは。愛理はしっかりしてるけど、時々ワケ解んないよね」
「なーんか。最後まで愛理の事、わかんないままだったかも。あたし」

呆れ笑いを浮かべながら、クスッと小さく笑い声を漏らす。
なんだか解らない子。だけど、それがすっごく愛理らしい気がして、無性におかしかった。
そして・・・。
℃-uteのメンバー相手に、怒ったり笑ったり呆れたり・・・こんな事がもう終わってしまうと思うと、なんだか急激に寂しく感じた。
その瞬間。遠くから不意に、スタッフさんの声が聴こえた。
「すみません!あと、10分で開場です!!!」
その声を皮切りに、ひと気のないステージが、俄かに忙しく動き出した。

「じゃ。そろそろ戻らなきゃね・・・楽屋に」

そう呟き。
わたしが舞台袖に向かって踵を返そうとする。
すると、その瞬間。俄かにわたしは、舞美に右手を掴まれた。
振り返ると・・・物凄く真剣な目をした舞美が、わたしの顔を見つめていた。

「舞美・・・?」
「まってよ、えり!さっきの言葉、あたしまだ・・・続き・・・言ってないよ?」
「え?」
「あたしは最後まで・・・えりから、わからないままじゃ、イヤだから」

握り締める手が強まる。
舞美の手は微かに震えを帯びていて、その振動はやがて、声にまで伝わる。
その真剣なまなざしは、緊張のせいか、ほんの少しだけ潤んでいた。

「最後ぐらいは知って欲しい、ん・・・だよ・・・ね」
「・・・・・・・・・」
「あたし、えりのこと・・・」

ゆっくりと噛み締めるように、言葉を口にする舞美。
でも、ステージ上はさっきとは違った。
開場の準備に先駆け、すでにスタッフさんがザワザワと動き出していた。

「・・・・・・・いいよ。舞美」
「へ?」

わたしは俄かに、言葉を遮る。
人差し指を一本立てて舞美の唇に触れると、舞美はビクッと肩を揺らして、言葉を飲み込んだ。
言葉を遮られたその目は、不安に揺れていた。

「え・・・り?」
「いいよ、舞美。言わなくても解ってるから」
「え?」
「舞美の事はわかってるよ。だってあたし、舞美の事・・・今までずーっと、誰よりも見てたんだからさ!」

人差し指をゆっくりと離す。
すると。舞美はまるで金縛りが解けたみたいに、僅かに口を開いた。
でも、何かを言いたそうな唇は、何も言えず・・・舞美はギュッと唇を噤んだ。
まっすぐな目で、潤んだ目で見つめてくる舞美に、わたしはそっと、笑いかけた。

「それに。今ここで言葉の続き聞いちゃうと。卒業式の前に、ぶっ倒れちゃいそうだもん、あたし!」
「・・・え?」
「言わなくても舞美の事は解ってる。でも、解ってても聞きたいから・・・公演が終わったあとに聞かせて?」
「えり・・・」
「言葉の続きは、終わったあとに聞かせてね?舞美――」

そういうと・・・なんだかメチャクチャ照れくさくなって、
わたしは早足で舞台袖へと掃けて行ったんだ。
そして。舞台袖に掃けると、案の定と言うか、なんと言うか・・・
愛理と千聖が、なっきぃとまいちゃんを引き連れて緞帳の裏に隠れてた。
ってゆっか、隠れる気が本当にあるんですか?レベルで、なっきぃは緞帳から全身がはみ出していた。
そうだね。4人も同じトコに隠れてると、さすがにはみ出るよね・・・。
なんかもう、℃‐uteメンバー総出で、うちら2人の様子をめっちゃ伺っていたみたいで、
心底・・・言葉の続きは後回しにして良かったなぁと、わたしは思った。

「もう、なんなの?!なんでメンバー総出で、覗き見してんの?!!」

緞帳の裏に隠れる愛理をとっ捕まえる。
ホントに島根県に売っ払ってやろうか?このカッパは、もう!!
でも。愛理は臆することなく、いつものニヘラ〜って笑顔を浮かべると・・・わたしに当たり前の様に、こう答えたわ。

「そんなの・・・決まってるじゃん。えりかちゃん」
「え?」
「今日が最後だから、あたしたちも見ときたかったの。2人の想いが叶う瞬間」
「・・・・・・・・・・・」
「知ってるよ?あたしたちも、2人の気持ち。いつも見てたからね・・・2人の事!」

そう言って笑う愛理と、そして、℃-uteのメンバーたち。
なんか・・・ただの覗き見を、上手い事言ってはぐらかされてる様な気が、しないでもないけど・・・。
「知ってるよ?」と言われる事が、全然イヤな気分じゃなくって、なんだか凄く嬉しかった。
そうだね。
わたしが舞美を解ってるのと同じように、みんなも解ってるんだよね。わたしたちの事――。
ってゆっか、℃-uteのメンバーでよくわかんないの、ぶっちゃけ、愛理だけだし・・・。

そんな事を思いながら、わたしが笑顔を浮かべていると、
俄かにまいちゃんが、わたしの腕に手を絡めてきた。
そして・・・悪戯な笑顔で、こう答えたんだ。

「ねぇ、えりかちゃん!コンサートが終わった後、言葉の続き聞くの・・・楽しみだねぇ〜」
「ちょっ!何言ってんの?言っとくけど・・・あんたらは来ちゃダメだからね!!!」
「ヤダよ!今日で最後だから・・・今日1日中、えりかちゃんから離れる気ないもーん。あたしたち!!」
「ちょっと!!!こらっ!まい!!!ダメ!!!」

17時が回る・・・。
会場の扉が開き、お客さんの誘導が始まった。
そして、あと1時間でステージが始まる・・・。

この素晴らしいメンバーとのラストステージ――。

きっと最後のステージは、
まるで花火の様に一瞬で、だけど、永遠に焼き付けられる悠久の思い出。
だから・・・ちゃんと隅々まで見ておこう!
しっかりブルーベリーを食べて、澄み切った目で、このステージの全てを・・・。
お客さん1人1人の顔、スタッフさんの表情、大好きなメンバーの笑顔。

真剣な目をした舞美の・・・大好きな横顔も――。

全ての思い出を胸に焼き付けて、
この感動を日記に付けて。
今日という日を、ずーっとずーっと大切にして・・・。



<読んで一句>

  知ってます
  ℃‐ute最高!!
  わたし、知ってます

         Byえりか




 <えりかの大阪2DAYS日記 完>