えりかの わんこそば 日記



PM20:00。
私は自分の部屋で「梅田式腕立て伏せ」を一生懸命やってました。
梅田式腕立て伏せとは、両膝をついたままで腕立て伏せをする、ちょっとだけズルい腕立て伏せ。
舞美に以前、「それじゃ効果全然ないよー」と言われたけど、仕方ないの。だって、両膝つかないと出来ないんだもん。
あぁ。逞しいアスリートの舞美と違って、えりかはなんて非力なんだろ・・・。
そんな事を思いながら腕立て伏せを一生懸命やってると、お母さんが階段を昇りながら大声で怒鳴っているのが聞こえた。


「えりか!夕飯食べなくていいの!?」
「うん。今日は晩御飯抜く。ごめんね!!明日、対決があるの!?」
「対決?なんの対決があるの?対決なら尚更食べなきゃダメじゃない?」
「ううん!食べなくていいの!!食べちゃダメなの!!!」


私の言葉に、お母さんは「もう・・・折角、お料理ブログを見て、ステーキおにぎり作ってみたのに」と言いながら、リビングへと戻っていったわ。
って言うか・・・え?!ステーキおにぎり作ったの?!お母さん?!料理ブログってもしや?くいしんぼーの?
あれってお料理ブログなの?!やだ、超ー食べたい!!
顔はウズラ?!さてはウズラの卵なのね?!おにぎりにステーキとウズラ!!やだ、ステキ!!どうしよう、凄く食べたい!!!(ジタバタ

でも・・・ごめん。ごめんなさい、お母さん!!
せっかくのステーキおにぎりだけど、えりか、食べるワケにはいかないの!!だって、明日は対決なんですもん!!
そう。わたし達の永遠のライバル、ベリーズ工房と『わんこそば対決』があるの!!
だからご飯を食べないで挑まなきゃダメなの!絶対、負けない。絶対負けないんだから!!わたし!!
℃‐uteのリーダーである舞美の為にも。
ううん。えりかの愛する舞美の為にも・・・わたし達は勝たなきゃいけないの!!!
憎きベリーズ工房に、絶対に負けるワケにはいかない!!



     ×         ×        ×



そして、翌日。
わたし達はわんこおそば屋さんに向かいました。
わたしは結局、朝ごはんも抜いて、すっごくおなかペコペコ。
でも。これだけペコペコなんだもん、きっと100杯はイケちゃうよね!!
あ、でも・・・舞美の目の前で100杯も食べるの、ちょっと恥ずかしいかも。
あぁ、この気持ちはなんだろう?ジレンマ?そう、恋する乙女のジレンマ。
舞美のお役に立ちたいけど・・・100杯も食べたら、きっと舞美にドン引かれる。わたし、どうしたらいいの?!舞美!?


・・・・・・・。
すると。
ジレンマに打ちひしがれるわたしの隣で、舞美と愛理がのほほーんとした顔で会話をしていたのが耳に入ってきたの。


「ねぇ、舞美ちゃんは目標、なん杯?」
「えー?どうしようかなぁ?えっと、じゃぁ300杯とか言ったりして!?」
「あはは。300杯とか、言いすぎだよ~」


親指をビシッと立てて、爽やかに300杯宣言をする、愛しい舞美。
そんな舞美を見て、わたしはなんだか胸がキュンとしたの。
だって。わたしは目標100杯。舞美は300杯。
ヤダ、わたし、なんだかんだ言って、舞美の3分の1じゃん。わたしって、なんてしおらしいオンナなんだろ!!


あぁ舞美。
サラブレットのタテガミの様な流れる美しい髪の毛と、ゾウアザラシの様な脅威の胃袋を持つ舞美。
あなたの未知なる生態系に、ムツゴロウ博士の様に「よーしよしよし」と、触れてみたいわ、舞美。



そして・・・。
わたし達はついに、わんこそば大会をスタートさせる事になった。
思ってたより、1杯ごとのわんこそばは少なくて、結構なペースで食べれたわ。
この調子なら、ホントに100杯イケちゃうかも!!

でも、わんこそば屋のおばさん達が、
そんなわたしのペースを乱すがごとく、「ハイ、ドンドン、じゃんじゃん」言ってわたしを笑わせようとするの!!
ヤメテ!!笑わせないで!!わたしの心を乱さないで!!
さてはあなた達、ベリーズサイドからの刺客ね!!℃‐uteの妨害をすべく、雇われたのね!!
わたし達を吹き出させて、鼻から蕎麦を出させて、勝負を負けさせ・・・あげく、アイドルとしても失脚させようとしてるのね!!
負けない!えりか負けない!!みんなも負けちゃだめ!!頑張って、℃‐uteのみんな!!

すると、愛理がベリーズの雇った刺客のおばさん相手に、ノー天気に「おいしいですね~」と言って話しかけている。
だめよ!愛理!!その人たちは人が良さそうに見えるけど、ベリーズの雇った刺客よ!!
騙されないで!!!!

だけど・・・。

そんなわたしの心配はいらぬ心配だったみたい。
愛理はおばさんたちの「ハイ、ドンドン、じゃんじゃん」言ってる妨害工作を邪魔するがごとく・・・

「このお蕎麦、二八蕎麦ですか?」

と、食通な事を聞いて、おばさんたちをポカンと黙らせているわ・・・。
・・・・・・・。
さすがだね、愛理。


そして。
愛理の向こうでは、舞美が美しい汗を輝かせながら、爽やかにわんこそばを貪っている。
ラーメンとかならわかるけど、どうしてわんこそばで汗をかいてるの?舞美・・・。
・・・・・・。
ま。そんな舞美もステキだけどね。汗までステキな人♪


そんなこんなで。
わたし達は一心不乱でわんこそばを食したわ・・・。
ベリーズに負けたくない!!舞美のお役に立ちたい!!
その一心で、わたしは54杯もわんこそばを完食した。

わたしも舞美も愛理も・・・みんな満足なほどわんこそばを食して、あとは結果をまつだけ。
ちっさーはすでに、「絶対優勝だよね~」とニコニコしている。
ふふ。気が早いんだから、ちっさー。まだ、優勝してるかわからないでしょ?
あぁ~あ。優勝してたら、舞美と品川プリンスのケーキバイキングに行こっかなっ♪
・・・って。ヤダ!わたしもすっかり優勝した気分じゃん。気が早いんだからっ!!もうっ。


そして・・・。
舞美は集計結果を聞いてきたらしく、みんなの下へ戻ってきた。
そんな舞美の表情はニコニコ笑顔で、すぐに解ったわ。間違いなく、優勝ね、わたしたち。
早く品川プリンスに予約入れないとねっ!
間違ってケーキバイキングじゃなくって、結婚式場の予約しちゃったりして!!キャーーー!!


そんな感じで、優勝の二文字にすっかりと頭の中が独占されている私たち。
ニコニコしている舞美の口からは、「℃‐uteは478杯です」と言う言葉が告げられたわ。
ウッソ!すごいわ!!1人60杯以上食べてる。やだ、私たち大食い!!
これで負けるワケないわ。これで負けたら、ベリーズ工房には茉麻が7人いるってことだわ!!!
コピーロボットね!不正行為だわ!!

だけど――。
負けるわけないと確信している私たちとは裏腹に。
目の前の舞美は、顔色を翳らせると、凄く残念そうにこう言ったの。

「そして。ベリーズチームは、528杯でした・・・」

ガーーーーン!!
え?!わたし達、頑張ってあんなにいっぱい食べたのに・・・528杯?!
なに?!50杯も負けてるの?!!
ヤダ、ベリーズチーム、狂ってるわ!!食いすぎ!!てゆっか、アイツら、飢え過ぎ!!
どこの発展途上国よ!!!


そのあと。
舞美は個人成績を発表してくれた。
栞菜が41杯で総合14位。私が54杯で総合13位。
わたしと栞菜でワーストワンツーだったのね・・・ごめんね、みんな。
そして。ちっさーが60杯で総合11位。
舞ちゃんが75杯で総合9位。
なっきぃが76杯で総合6位。
愛理が85杯で総合3位。
そして・・・わたしの舞美が、87杯で1位だった。

あぁ、なんてことなんでしょう?!!
舞美がせっかく、1位をとってくれたのに?!!ベリーズに50杯も差をつけられて負けるなんて!!
わ、わたしがちゃんと宣言どおり100杯食べてれば、勝てたハズなのに!!ごめんなさい、舞美!!!
個人優勝したあなたの名を汚してしまうなんて!!
えりかのせいで!!えりかのせいで!!!

あまりのショックに、わたしは思わず涙を零してしまったの。
ごめんなさい、舞美!!わたしが54杯とか不甲斐ないばかりに、ごめんなさい!!
あぁ、わたしはなんて役立たず。えりかのバカバカ!!あぁ、わたしってホント、ドジでノロマなカメ!!

「ご、ごめんなさい!!舞美!!!わたしが足を引っ張ったばかりに!!!」
「え~。違うよ、えりのせいじゃないよ~」

そう言って慰めてくれる舞美。
あぁ、優しい舞美。ごめんなさい。わたしごときツマラナイ女の為に優しくしてくれるなんて。
なんてジェントルメン・・・。
舞美。素敵な舞美。わたしの英国貴族、舞美。

そんな爽やかな笑顔で慰めてくれる舞美の隣で、
愛理もいつもの笑顔でニコニコ笑いながら、わたしをフォローしてくれたわ・・・。

「そうだよ~。えりかちゃんのせいじゃないよ~」
「あ、あいりぃ・・・」
「そもそも、えりかちゃんより、栞菜ちゃんの方が少ないしね~」

無邪気な顔でボソっと言った愛理の言葉に、栞菜がわたしの隣でビクッとしてたのを見逃さなかったわ。
栞菜。わたし達、好きな人の足、引っ張ってばかりだね、栞菜。
わたしは舞美の。栞菜は愛理の・・・。
帰りに一緒にカラオケ行って、泣きながら鬼束ちひろでも歌おうか?・・・栞菜。


そもそも。
1位が舞美、2位が愛理、3位がなっきぃ、4位が舞ちゃんって・・・。
わんこそばをたくさん食べた順番、モロに℃‐uteの人気順な気がするのは気のせいかな?
ヤダ、わたし。人気もない上、役立たずなのね・・・。

「わたし、ホント、ダメな女だね・・・舞美」
「えりぃ・・・」
「℃‐uteで人気もブービーだし、わんこそばもブービーだし、顔はアラブだし・・・」
「えり」
「ホント。わたしなんて、きっと℃‐uteに必要のない存在なんだね・・・」

わたしがそう言った瞬間。
ピシッ!!!
舞美の愛の張り手がわたしの頬に飛んできて、わたしは思わず両目を見開いたわ。
℃‐uteのみんなも、あまりに昭和な展開に、びっくりして目を丸くしている・・・。
思わずちっさーが、泣きそうな顔をして舞美の元へ駆けつけたわ。

「ま、舞美ちゃん。何もひっぱたくこと・・・」
「ちっさーは下がってて」

そう言って、舞美はわたしの元へ一歩近寄って来たの。
真っ直ぐな瞳。流れる黒髪。素敵な貴方。
舞美は何も言わず、再び右手をわたしの頬に近づけた。きっとまた、叩かれるのね。
あぁ、愛しいあなたにドメスティックバイオレンスされるなら、わたしは平安女流歌人の様に耐え忍んで見せるわ。舞美。

だけど・・・。

舞美はわたしを叩かなかった。
近づいてきた右手はわたしの左肩にポンと乗せられ、舞美は優しい笑顔で微笑んだわ。

「えり。自分は℃‐uteにいらないとか、馬鹿な事、二度と言わないで!!」
「舞美ぃ・・・」
「℃‐uteで人気がブービーとか、わんこそばもブービーとか、そんなのカンケーないじゃん!!」
「・・・・・・・・・」
「だって7人の中で、誰かは必ずブービーになるんだよ?えりがならなければ、他の誰かがブービーだったんだよ?」
「・・・・・・・・・」
「もし体調が悪かったら、あたしがブービーだったかもしれないじゃん!」
「・・・・・・・・・」
「ブービーの人間がいらない存在なら、あたしもいらない存在になっちゃうじゃん」

わたしは思わず言葉を失ったわ。
そんな・・・舞美がいらない存在なんてありえない!!!
舞美がいなかったら、この℃‐uteは終わり・・・。ううん。わたしの人生が、終わりよぉおおおお!!!

「ご、ごめんなさい!!舞美!!!あ、あたしが馬鹿だったわ、舞美!!!」
「えり・・・」
「そうよね。ブービーとか、そんなの関係ないわよね」
「そうだよ!!順番なんてカンケーないよ!!あたしたち、みんなで℃‐uteなんだよ!!」

舞美の言葉に、周りにいるちっさーやなっきぃたちも、みんな嬉しそうにうなずいている。
そう。そうだよね。わたし達に順番なんてない!!みんなで℃‐uteなんだよね!!
すると、隣にいた愛理がいつものふにゃっとした笑顔で、「その通りだよ、えりかちゃん」と言って、そっとわたしの肩をなでてくれたわ。
ありがとう、愛理。愛理も心配してくれてたんだね。

「順番なんて、カンケーないよ。えりかちゃん」
「愛理・・・」
「だって、順番がカンケーあるならさ、ブービーのえりかちゃんより、ビリっけつの栞菜ちゃんの方がどちらかと言うといらなくなっちゃうでしょ?」

ほわわーんとした愛理の鬼の様な一言に、
わたしの視界の隅にいた栞菜が、ビクッと肩を震わせたのを見逃さなかった。
栞菜。なんていうか・・・・・・ガンバっ©


そして。
舞美は大きく手を広げて、わたしたちに言ってくれた。

「そう、忘れないで!!あたしたちは、みんなで℃‐uteなんだよ?!!」

それは爽やかで優しい微笑みだった。
なんてカリスマ性!!なんて美少年!!きっと、舞美は天草四郎の生まれ変わりね。
今度一緒に、島原の乱、起こしましょうね・・・舞美。

「あたしたちは残念ながらベリーズに負けたけど・・・個人優勝はあたしがしてるじゃん!!」
「うん・・・」
「あたしたちはみんなで℃‐ute。つまり、あたしの優勝はすなわち、℃‐uteの優勝だよ!」
「ま、舞美・・・」
「そして℃‐uteの優勝は・・・えりの優勝じゃん!!!」
「舞美ぃいい!!!」

舞美のあまりに素敵な言葉に、わたしはその場に泣き崩れてしまった。
そんなわたしをみて、みんなが「えりかちゃん、優勝おめでとー!!」と言ってくれている。
ありがとう、みんな、ありがとう!!いまさらながら、なんて素敵なグループなんだろう、℃‐uteって!!!
そして。そんな私の隣でも、愛理が栞菜を見て、ニコっと微笑んでいた。

「えりかちゃんも優勝って事は、栞菜ちゃんも勿論、優勝だよ?」
「え?あ、あたしもいいの?」
「もちろんじゃん!!」
「でも、あたし。人気もビリで、わんこそばもビリで、顔もタイ人だけど・・・それでも・・・」
「顔がタイ人でもフィリピン人でも、なんでもいいよ。栞菜ちゃんも、えりかちゃんも、みんな優勝だよ!?ね!舞美ちゃん!!」

愛理の言葉に、舞美は満面の笑顔でガッツポーズで答えたわ。

「もちろん!!あたしの優勝は、メンバー全員の優勝じゃん!!」

あぁ、愛しい舞美。
なんであなたはそんなに素敵なの?舞美。
ジュノンスーパーボーイコンテスト受けたら、きっとダントツ優勝ね、舞美。
わたしも漏れなく愛の一票を投じるわ、舞美。
そして、そんな素敵な舞美を見て、きっとなっきぃもわたしと同じ事を思ったのね・・・。

「舞美ちゃん、かっこいぃ☆」

なっきは思わずそう叫んだわ。
そして、なっきぃの言葉に、一緒にいた愛理やちっさーや栞菜達も次第に・・・

「うん!カッコイイよ、舞美ちゃん!!」
「えー?!ホント?!!」
「サイコー!!舞美ちゃんカッコイイ!!」
「カッコイイ、舞美ちゃん!!」
「舞美ちゃんが一番カッコイイーーー!!!」

わんこそば屋の中にあふれ出す、「舞美カッコイイ」コール!!
そう、℃‐uteのメンバーはみんな解ってる。
舞美はわたし達のヒーロー。舞美が一番カッコイイって事を!!!

舞美は「みんな、ありがとう!!」と言って、嬉しさと照れくささが同居したような顔で笑っていた。
そして、そば屋で突然起こった「舞美カッコイイ」コールに、爽やかすぎる笑顔で、ピースで答えるバカっぽい舞美。
そんな舞美も、サイコーにカッコイイよ・・・。


私がそんなこんなで、舞美のカッコよさ再確認に酔いしれていると、

「だからさぁ、えり・・・」

そう言って私の正面に立つ、ステキな舞美。
そして、舞美は爽やかな笑顔で、わたしにこう言ってくれたの。

「ムリして℃‐uteのために頑張ろうとかしなくていいんだよ?えり」
「え・・・・」
「えりはさ、ちょっとダメな所がカワイイんだから」
「舞美・・・」
「ちょっぴしダメで泣き虫な所が一番カワイイよ、えり」


あぁ。
素敵な舞美。大好きな舞美。私の想い人・・・舞美。
えりか、千年の恋。
光源氏より愛しい貴方に、歌人、梅田えりか。
この愛の歌を捧げるわ――。




わんこそば
いっぱい食べてね・・・
わたしのそばで©(ちょっと字・余・り♪)


                     BY え・り・か




(えりかの わんこそば 日記  完)