そう!例えば~寒い冬の夜とか・・・。
おうちで一番暖かい部屋のストーブの前とかに座り込んで、マンガを読んでたりするでしょ?
そーゆう時にやって来る!
甘えたな目ですり寄って来て、あたしの膝の上に当たり前のよーに乗っかってきて・・・。
なんだろ?アルマジロ・・・?
そう。なんだかアルマジロのように膝の上で丸っこくなって、嬉しそうにぬくぬくしている。

で・・・あたしは笑いながら。
「あーもう!重いなぁ~。膝の上に乗っからないでよ~」とか言いながら頭撫でるんだけど、
敵は頭撫でられて、すっごい幸せそーに目を閉じちゃったりなんかして。
そうされると、もうね。悔しいんだけど可愛くて仕方なくってさ!
まぁ、しょーがないかぁ~・・・なーんて思いながら、ついつい抱きしめてあげちゃうんだよね~。

そんで、抱きしめるとさ。
ちっちゃくてあったかくってモコモコしてて・・・。
なんかも~。あー!かわいい!!もー!手放したくなーーい!!・・・って思っちゃう!!
ギュッとしたまま、鼻先くっつけちゃったりなんかしてね。
そんで「今日は寒いよね~?」って、ついついちっちゃい子に話しかけるよーな口調になっちゃったり!

ねっ!こーゆー気持ち。解るでしょ?!!

・・・・・・。
え?
気持ちは解るけど・・・アルマジロの表現のせいで、なんか台無し??
うーん。そっかな?アルマジロって丸くなるじゃん。あんな感じなんだけど・・・ダメ?表現、ビミョー?
そっかぁ・・・。
この気持ち。絶対、犬好きならわかると思うんだけどなぁ~。





――いぬ、だいすきーっ!©――





ビル風が、ぴゅーって音を立てて頬を掠めていく。
冬も随分と後半戦なのに、まだまだ寒さは拭えない。
手袋持ってくれば良かったな~って思いながら、あたしが両手に「はぁ~」と息を吹きかけると。
「随分、手が冷えてるね?舞美」
と言って、ももはポケットに突っ込んでいたちっちゃな手をあたしの右手に添えてくれた。
添えられたももの手はこの寒空の中でもあったかくって、不思議に思ったあたしは「あれ?なんでももは、冷たくなってないの?」と問いかけると、
ももはフッフッフッと笑い、イタズラな笑顔で答えたんだ。
「フフ。何故かと言うと、ももの体の中には、情熱と言う名の燃え盛る血潮が・・・」
「あ。なんだ~もも!ポケットの中にホッカイロ隠してるじゃん。あったかーい!!」
「って!説明の最中に人のポッケから、カイロを盗らないでー!!!ももがバカみたいじゃん!!」
そう言って寒空の中、あたしの腕にまとわりついてくるもも。
まぁ、情熱と言う名の燃え盛る血潮はともかくとして・・・あたしの体にジャレて、くっついて離れないももは、確かにホッカイロに負けないぐらい暖かい。
ちっちゃくてあったかくってモコモコしてて―――。

「なんかさー」
「ん?」
「ももってさ、犬みたいだよね」
「えーー?!失礼な!!」

・・・・・・・。
なんだか、予想外の反応。
普通は「犬みたい」って言われれば、カワイイとかそう言う意味合いも含むから、悪くはないと思うんだけど・・・。
だけど。ももはプイっとした表情を浮かべながら、大きな声で声を荒げ、真っ向から否定をしたんだ。

「てゆっか。ももの方が犬よりカワイイし!!」
「・・・・・・・あぁ」
「なに、舞美。そのビミョーな反応・・・」
「いや。ももらしいなーと思って」

呆れたように笑うあたしに、ももはふてくされヅラ。
そんな態度がまた可愛くって、あたしはイタズラな笑顔で「もも。いい子ちゃんでちゅねー!」と、自分ちのわんこにするみたいに、ももの頭を一撫で。
当のももは、犬扱いされてるのが気に食わないながらも、意外とまんざらではない様子。
頭を撫でられ意外と満足げ。
ももは頭を撫でてたあたしの手を取ると、ニコニコな笑顔でこう答えたんだ。

「じゃぁ・・・。いいよ。ももはわんこで」
「いいの?」
「その代わり、舞美がももの飼い主様だからね!」

そう言ってイタズラっぽく笑うもも。
そして、あたしの腕をひっ捕まえると、大きくあたしの腕を揺さぶりながら・・・
「ご主人さまー。ももちゃん、エサが欲しいワーン」とおおはしゃぎ。
あたしの体に引っ付いたきり、しつこく離れない感じや、何度も何度も右手でおねだりをしてくる様は、本当にあたしのうちで飼ってる犬と同じ感じがして、なんだか妙におかしくなる。

でも。ただ1つ、違うところは・・・。

「ご主人さまー。今夜は回ってないお寿司が食べたいワーン」
「って。なんで犬が、お寿司食べたがるの?!ダーメ!!」
「えーー!ケチ!!なにさ!!岸部四郎!!舞美の、派遣切りOL!!」
「な!そ、そこまで言いますかー?!」

そんな、くだらない会話を交わしながら・・・。
通り過ぎて行くサラリーマンたちの「なんだこの、元気な小娘たちは?」って目線もなんのその。
あたしとももは、手を繋いで、顔を引っ付けて、笑いあって。冬の寒空の夜道を、賑やかに歩いていた。
腕を絡めたり、顔を近づけて笑いあったり。いつの頃からか解らないけど、あたしとももは、気づくとこーんな感じのラブリーな間柄になっていたんだ。
そしてそれは・・・。
きっと、あたしとももだけの特別なカンケーなんだと、思い込んでいたんだけど――。





そんな、ある日のことだった。
その日はBerryzと℃-uteで合同のお仕事があって、あたしはえりと一緒にBerryzの楽屋へと向かったんだ。

「ちぃ。DVDありがとうねー」

そう言ってちぃに借りていたDVDを渡すと、
ちぃは元気な声を上げ「あ、舞美。面白かったでしょ?DVD!」と言って、笑顔を浮かべた。
「うん。すっごい良かった!サイコー!!」
ちぃの笑顔につられ、あたしも笑顔を浮かべて親指を立てる。
すると、隣にいたえりが「なんのDVD?あたしも借りようかな?」と言って、ちぃに手渡したDVDを覗き込んだんだ。
「ん?えりかちゃんも見る?」そう言ってえりにDVDを手渡すちぃ。
DVDのジャケットには、デッカく『世界遺産100選』と言う文字が綴られていた。

「・・・・・渋いね」

てっきりえりは映画のDVDだと思っていたらしく、予想外のシロモノに思わず眉間に皺を寄せた。
そして、物凄~くさり気なく、ちぃの手にそのDVDをご返却していた。
借りると意外と面白いのに、勿体無いなー。
すると・・・。
ちぃとあたしとえりで一緒に会話しているのを見つけ、向こうの方から佐紀が「あ、舞美もDVD借りたんだー?」と言いながら、あたしたちの元へと歩み寄ってきたんだ。
どうやら佐紀も、ちぃからDVDを借りたクチらしい。
佐紀は「ねぇ。舞美はどこが良かった?世界遺産」と、あたしに問いかけてきた。

「うちは青の洞窟が良かったんだけど・・・舞美は?」
「えっとね。あたしはカッパドキア。すっごい良かった!!!」

標高1000メートルのアナトリア高原に広がる奇岩群。カッパドキア!!
その圧巻の風景には目を奪われるようだった。
すると。ちぃが大興奮した様子で「だよね!いいよね、カッパドキア!!!」とデッカい声をあげると、
Berryzの楽屋にお邪魔して梨沙子とおしゃべりをしていた愛理が、カッパドキアの響きに興味津々の眼差しで、おもいっきりこちらを振り返っていた。
・・・・・・。
うん。キラキラな目でこっちを見てるけど、カッパドキアはあくまで地名で、全然河童とはカンケーないからね・・・愛理。

その後も。
あたしとえりと佐紀とちぃで、世界遺産のお話をしながら、なんでもないような会話が続いた。
どこに行きたいねー。いつか一緒に行こうねー。そんな、アテのない会話の繰り返し。
実際問題。℃-uteのメンバーだったらまだ、一緒に旅行とか行ける可能性もあるんだろうけど・・・Berryzのメンバーと一緒に旅行なんて、スケジュール的に、絶対にムリなんだろうなと思う。
でも、もしもいつか一緒に行けるなら、みんなで一緒に世界遺産とか行きたいな。
その時は勿論、ももも一緒に。カッパドキアのあの圧巻の風景を、一緒にももと見たいな・・・。

そんな事を考えてる時だった――。
不意に楽屋の扉が開き、楽屋の中に、俄かに賑やかな声が聞こえてきた。
小型犬の鳴き声の様な・・・愛らしくて、キャンキャンとした声。
「あ・・・もも」
姿を確認しなくても、すぐにももだと解る。
あたしはその小型犬の様な愛らしい声に反応し、声の方をゆっくりと振り返ったんだ。
すると。

「あ・・・・・・・」

ももに呼びかけようとして、思わずその言葉を飲み込んだ。
そこにいたのは、ももと・・・熊井ちゃんだった。
2人はあたしたちに気づくことなく、2人で仲良く手を繋いで、キャッキャッと楽しそうに笑いあっていた。
手にはコンビニの袋とおかし。
そして、2人は楽屋のソファに体を並べて座ると、『週刊・世界遺産(デア○スティーニ社)』を広げ、仲良く一緒に雑誌を読み始めたんだった。
・・・・・・・・。
って言うか。Berryzの楽屋は、どんだけ世界遺産が流行ってるんだろう――。


なんとなく・・・。
2人の方が気になって、あたしは佐紀たちと会話をしつつも、目線はももと熊井ちゃんの方を向いていた。
ちぃが隣で熱く、『ピサの斜塔が倒れない理由』を語っていたけど、正直、そんなのはどーでも良かったし・・・
むしろ、ももたちの会話がちぃのデカい声のせいで聞こえなくって、ちょっとジャマなレベルだった。ごめんね、ちぃ。声、デカイよ。
でも。ももたちの会話は全く聞こえないけど、2人のやり取りは見てとれた。
2人で雑誌を読んで目を丸くしてビックリしたり、嬉しそうに笑ったり、コソコソと耳打ちしたり、冗談っぽく叩いたり・・・。
まるでカップルの様に、嬉しそうにじゃれ合う2人。
いつも。子犬のように、あたしにじゃれてくるももだけど・・・。
そこにいるのはやっぱり、子犬のよーに熊井ちゃんとじゃれあっているももで――。
あたしはなんだか、見るに居た堪れなくなって、2人から大きく目線を外したんだ。
すると・・・。

「あれー?舞美、いたんだーーー!!!」

俄かに聞こえる愛らしい声。
熊井ちゃんとお話するのに夢中で、ももは今更、あたしの存在に気づいたようだった。
そして、ソファに座っているももと熊井ちゃんは、何やらコソコソと耳打ちをしあい、
「丁度いいや。舞美に聞こうよ」と言って、ももは熊井ちゃんの手を取り、あたしの元へとノコノコと現れたんだった。
突然尋ねてきたももと熊井ちゃんに、あたしが戸惑いを顕にしていると・・・

「あのさ、舞美」
「なに・・・?」
「マチュピチュとアンコールワット、どっちがいい?」
「は?」
「ももはマチュピチュの方がカワイイと思うんだけど・・・」

・・・と。
人の気も知らず、ももは物凄くどうでもいい感じの質問を、あたしに投げかけてきたんだ。
そもそも、『マチュピチュの方がカワイイ』の意味が、サッパリ解らないんだけど・・・。遺跡ってカワイイの対象になるの?
あたしがポカーンとした表情でももを見つめていると、ももはなんだか嬉しそうな笑顔を浮かべ、
「ほら!マチュピチュって、響きがカワイイじゃん。『マチュ☆』『ピチュ★』って感じで、なんか『プリキュア』ぽい!!」
と、よく解るような解らないような、微妙な力説。
まぁ、確かに・・・マチュピチュとプリキュアは、平井堅と避雷針ぐらい似てるケド・・・だから・・・なに?

そんな、ももの問いかけに・・・。
あたしがなんかもう、どうしていいのか解らない感じで困っていると、

「ほらー!!微妙な反応じゃん、ももち!!やっぱ絶対、アンコールワットの方が上なんだよー!!!」

と、何やら得意気な熊井ちゃんの声。
あ・・・別に。アンコールワットの方が上だと思ったから、反応が微妙だったワケではないんだけどなぁ・・・。
熊井ちゃんの中で、あたしは完全に『アンコールワット派』にされてしまったらしい。
そして。アンコールワット派を(勝手に)獲得した熊井ちゃんは、得意気な口調で、畳み掛けるように答えたのだった。

「ほら。やっぱマチュピチュは高いからさ!高山病になるじゃん。だからダメなんだよ、あぶないもん」
「えーでも。遺跡があるって事は人が住んでたって事だから。別にフツーに住めるんだよ」
「でも、高いから寒いじゃん!電車もないし」

・・・・てゆっか。アンコールワットにも電車はないと思うんだ・・・熊井ちゃん。
でも。熊井ちゃんは『まるで自分の意見が正論』であるかのように、
そのあとも凄く饒舌に『マチュピチュ』のダメなところを語り続けていたのだった。
そもそも、『マチュピチュ』の上げ足を取らないで、『アンコールワット』の良さを語ればいいのにね。
熊井ちゃんって、こーゆーとこ、男らしくないよね。

「だいたいさー。マチュピチュ。絶対さ、近くにスーパーとかないじゃん!不便だよ」
「んー。でも。サークルKはあるかもよ?くまいちょー。あれ、田舎に多いし」
「でも。コンビニじゃ、お肉買えないじゃん!」
「大丈夫。ハナマサがあるから」

・・・・・・・。
えーっと――。
ゴメン。さっきから2人はマチュピチュの話、してるんだよね?南越谷の話、してるんじゃないよね?
さっきから、どうしてこの2人は、世界遺産を庶民レベルで語ってるのかな?
てゆっか、なんで熊井ちゃんは、さっきからマチュピチュを生活圏として扱ってるんだろう?
そしてももは、どうしてこんなデタラメな反論を真顔で出来るんだろう?
そうだね・・・。ここまできたら、きっと、シマムラとかもあるよね、マチュピチュに。なんかもう、どうでもいいよね、世界遺産。


なんだか。
ももと熊井ちゃんの2人の世界に、完全について行けてないあたし。
ワケ解らない話でじゃれ合って、でもすっごい楽しそうで、2人だけの世界作って・・・
なんだろ?この2人の、恋人同士みたいな繋がってる空気。
ももはてっきり、あたしにだけ、子犬みたいにじゃれてきてくれるのかと思ってたけど。
そんなのは、ただの思い込み。ももが一番じゃれ合ってて楽しいのはきっと――。

なんだか遣る瀬無くなって、思わず俯きがちになるあたし。
すると、ももがキョトンとした目で、あたしの顔を覗き込んできたんだ。
「ねぇ、舞美。聞いてる?アンコールワットとマチュピチュ、どっちが・・・」
「どっちでもいいよ・・・」
「え?」
「あたしは・・・アンコールワットよりマチュピチュより・・・カッパドキアの方が好きだから!!!」
思わずあたしは、楽屋に響き渡るぐらいの声で、乱暴に声を荒げてしまったんだ。
すると、『カッパドキア』の単語を聞き、やっぱり派手に、こちらを振り返っている愛理。
だから・・・イチイチ、カッパに反応しなくていいよ、愛理。やりづらいよ、愛理。空気読んでよ、愛理。

「あ、あたし!先に、℃-uteの楽屋に戻るね!!!!」

ますます居た堪れなくなったあたしは、
近くに居たえりにそう告げて、全速力でBerryzの楽屋を抜け出したのだった。
「ちょ、ちょっと!舞美?!」
ビックリした様子で声を張り上げるえり。
楽屋にいた他のBerryzメンバーたちも驚いているみたいだったけど、でも、こんな事、説明するワケにもいかないし。
あたしは取るもの取らずに、逃げるように楽屋を抜け出したのだった・・・。



     ×         ×         ×



廊下の自動販売機前。
℃-uteの楽屋に帰るのもなんだか億劫で、あたしは廊下の自販機の前で1人、時間を潰していたんだ。
でも。今頃みんな、あたしの事、探してるのかもしれないな・・・。
リーダーがいつまでもこんなトコで引きこもってても仕方ないし。
とりあえずコーヒーだけ飲んで帰ろうと思い・・・あたしが自販機にコインを入れ、ホットコーヒーのボタンを押そうとした瞬間――。
――ガコン。
自販機から出てきたのは、コーヒーではなく、おしるこぜんざいだった・・・。

「・・・・・・・・もも」
「舞美」

顔を上げると、あたしの目の前には、自販機のおしるこのボタンに手をかけているもも。
ももはその場にしゃがみこむと、自販機の取り出し口から、おしるこの缶を手にとり、「はい」と言ってあたしに手渡したんだ。
「・・・・ありがと」
手渡されるまま、あたしはプルタブに手をかけ、缶を開ける。
缶からは甘~い匂いが漂ってきて・・・口の中に入れると、甘くてドロドロの液体が流れ込んでくる。
てゆーか・・・なんでよりによって、おしるこのボタンを押すかな、もも。超~あまったるいんですけど・・・。

そんな事を思いながら、あたしはモソモソとおしるこをすすり続けていた。
すると・・・。

「あのさ。舞美・・・」
「うん」
「ももも・・・カッパドキア。17番目ぐらいに好きだよ」
「は?」
「それに。愛理は名前的に、一番好きだって言ってたよ。カッパドキア。だから、元気だしなよ・・・」
「・・・・・・・・」
「ちぃも、『カッパドキアに生まれて良かったー!』って、叫んでたしさ!ね。」
「・・・・・・・・」

なんか。よくわかんないけど・・・。
ももの口ぶりからして、あたしが楽屋を逃げ出した理由が、
どうやらみんなに、「カッパドキアが推してもらえなかったせい」と思われてるっぽい、ヨカン――。
ももは勝手に気を使って、さっきから妙にカッパドキアを推してくれている。
てゆーか。ヤダ!そんな理由と思われてるなんて、なんかあたし、凄い、残念な人っぽいじゃん!!

「べ、別に・・・あたしはカッパドキアはどーでもいいんだからね!」

なんとか誤解を解こうとして、あたしは声を大にして否定しようとするが、
ももはあたしの正面に立つと、クスッと笑みを零し、あたしのほっぺたをつねったんだ。

「もう・・・ツンデレないの!舞美。みんなちゃんと、カッパドキアもいいトコロだって言ってたから。ね?」
「いや、ツンデレとかじゃなくって。ホントに、カッパドキアはどーでもいいんだってば!」
「はいはい。カッパドキア、サイコー」
「だから、そんな問題じゃないんだってばーーー!!!」

なんとかして「カッパドキアはどーでもいい」と言うことを伝えようと試みるが、
否定すればするほど、勝手にツンデレ扱いされてしまう泥沼。
イライラが絶頂に達したあたしは、ほっぺたをムニムニとつねるもも手を払い、思わず声を荒げたんだ。


「もういいよ!!!ももなんて、熊井ちゃんと一緒にじゃれ合ってればいいじゃん!あたしの事はほっといてよ!!」
「え?!!くまいちょー?」


突然出てきた熊井ちゃんの名前。
ももはまさかここで熊井ちゃんの名前が出るとは思わなかったらしく、キョトンとした表情で目をパチクリさせていた。
だが、元々勘の鋭いもも。
あたしの発言から、あたしが『カッパドキア』ではなく、何が引っ掛かって楽屋を逃げ出したのか・・・すぐに感づいた様子だった。

「やだ、舞美。もしかして、やきもち焼いてたの?」
「違うよ・・・・」
「なんだ。それならそーと言ってよ。カッパドキア、推しまくっちゃったよ」
「だから違うって――!!」

あたしが声を大きくしてももの言葉を否定しようとした・・・瞬間だった。
俄かに唇に触れる感触。
キス。
優しく触れるキス。
それはホンの一瞬だったけど、あまりの驚きに、あたしの頭の中は一気に真っ白になったんだ。

「も・・・・もも?」

唇に指を触れ、ボーゼンとももを見つめる。
あたしの正面で、ももはイタズラな笑顔でクスクスと肩をすぼめていた。

「うふふ。心配ご無用だよ?舞美。あたしとくまいちょーは、ただの犬同士だから」
「え?」
「ももがちっちゃくて愛らしい小型犬なら、くまいちょーはデッカくてバカな大型犬じゃん」

・・・・・・・。
いや。「じゃん」もなにも――。
今、さらりとさりげなく、熊井ちゃんに酷い事言ったよね?もも・・・。
でも。ももは悪びれることなくあたしの頬に手を触れると、まっすぐクリクリとした目で、あたしにこう答えたんだ。

「そう。ももとくまいちょーは、ただの、犬同士のじゃれ合い。犬のじゃれ合いに嫉妬してどーすんの?舞美」
「・・・・・・・・・・・」
「尻尾振って鼻面寄せ合ってくっつきあってても、ももとくまいちょーはただのじゃれ合いじゃん」
「・・・・・・・・・・・」
「どんなに色んな人に尻尾振って媚びたって、犬が一番大好きなのは、いつだって飼い主様なんだよ?」
「――――――!」
「ももの飼い主様は舞美でしょ?自信持ちなよ!」

そう言って。
ちっちゃくてあったかくってモコモコのわんこは、キス代わりにその鼻っ面をあたしの頬っぺたにくっつけた。
それは、愛らしくて仕方のない、あたしのわんこ。
フワフワモフモフ、かわいいわんこ。
しょーじき。すっかり主従関係が入れ代わってしまったよーな気もするけど・・・それも悪くないかなーなんて、
あたしは思ってしまったんだ。




いぬ、だいすきーっ!  完>