雪うさぎ






ココアから昇る湯煙が、控え室の窓を白く曇らせた。
私はココアを2回、フーフーと吹き覚ますと、ゆっくりとそれを口に含んだ。
甘くて温かな味が、口いっぱいに広がる。
少し砂糖を入れて甘くしすぎたかなと思ったけど、こんな寒い日にはこれぐらいの甘さがちょうどいい気もした。
今日、東京は今年一番の冷え込みだとスタッフの誰かが言っていた。


シーンと静まり返った室内。控え室の中には誰もいない。
聞えるのはヒーターの機械音と、外から聞えてくる笑い声だけ。
膝の上には友達から借りた、読みかけのマンガ本。
誰もいない室内で読むマンガはとても落ち着くが、落ち着きすぎてやっぱりすぐに飽きてしまった。
私はマンガ本をテーブルの上に伏せて置き、椅子からゆっくりと立ち上がった。

みんなは今、どーしてるだろーか??

退屈しのぎに控え室の窓に歩み寄る。窓はココアの煙とヒーターの熱で真っ白く曇っていた。
私はソレを、手のひらでそっとなぞる。なぞった部分からは日差しが照りつけ、私の目を僅かに眩ませた。
おでこに手を当てて、目を細める。眩しい光の中、飛び込んでくる街の景色。
「うわっ。すっごい雪・・・」
思わず感嘆を漏らす。
窓の外には雪化粧に彩られた銀世界が広がっていた。そして、その中で白い息を吐きながら大ハシャギで駆けずり回る、ベリーズのメンバー達の姿が見えた。

雪まみれになるのもお構いなし。ただひたすら雪合戦をする梨沙子と友理。
そんな2人を「風邪引くから戻ろうよー」と静止する、おかーさんみたいな佐紀ちゃんとちなこ。
雪合戦から少し離れた場所で、「巨大ロボー♪巨大ロボー♪」と謎の歌を口ずさみながら、巨大な雪の塊を転がしているまーさん。
そして、そんなまーさんの横で、手のひらに乗るぐらいの小さな雪の塊をいじくっている舞波。
それぞれの世界。それぞれの雪遊び。





その日、東京はこの上ない大雪に見舞われていた。








パタパタパタパタ。
遠くから騒がしい足音が次第に近づいてくるのが聞えた。
そして、バタン!控え室の扉が開く音。
振り返るとそこには、廊下を延々走ってきたのか?ぜぇぜぇと息を切らせたみやの姿があった。

「あ・・・・みや?」
「あれぇ?もも・・・・控え室に居たんだ?」

呼吸が随分と荒れている。真っ直ぐおろしたみやの綺麗な長い髪の毛が、すっかりボサボサになっていた。
みやは両肩をしきりに上下させたまま控え室の扉を閉めると、代わりに控え室のロッカーを開いた。そして、自分の鞄の中をゴソゴソと探っているようだった。
そんなに急いで、何か忘れ物でもしたんだろーか?
「どーしたの、みや?」
そう言ってみやに歩み寄り、不思議そうに上から覗き込むと、
「んー。手袋さがしてんの・・・」
「手袋?」
ちょっと意外な答えだった。これでケータイとかなら即解決なんだけど、手袋か・・・。
っていうか、なんだって手袋なんて探すのに、そんなに急いでんだ?
そんな私の疑問を察知したのか、みやはクスッと笑うとオーバーリアクションに両手を投げ出した。
「だってさぁ、梨沙子。素手で雪合戦やってんだよー!」
「うっそっ」思わず口に出る率直な意見。「え?アホ?」
そんな私のストレートすぎる言葉に、みやはケラケラと笑い転げた。「ね。ほんと。アホだよねー」
そして、「マジ信じらんない、しもやけになっちゃうよ」・・・・・・なんて事を言いながら、ゴソゴソと荷物の中を弄るみや。
どうやら梨沙子に手袋を貸す為に、こんなに息せき切らせて走って来たらしい。
みやに手袋取りに走らせて、自分は悠々と雪合戦で遊んでるんだから、梨沙子もとんだ悪だよなぁ〜なーんて思った。(もっとも、みやが勝手に取りに走ったんだろーけどね)

私は窓を開け2階から、雪遊びをするメンバーを覗き込んだ。
確かに梨沙子は素手で、だけど全く気にする様子もなく友理と遊んでるようだった。
素手なのも凄いが、この寒い中、わざわざ雪合戦で雪まみれになるのだから、正直恐れ入る。
「雪合戦かぁ。ガキんちょ2人は元気だねぇ」ため息まじりに呟いた。すると・・・
「ん?ももはやんないの?」
と、みやが振り返り、意外そうに言うので、思わず面食らう。
「うぇ?・・・って、みやはやんの?」
「うん。ちょっと楽しそうだから、梨沙子の分と一緒にあたしの分、手袋持ってって参加しようかなぁー・・・って」
「ふーーん」
そう言いながら、私は持ちっぱなしだったココアのカップをテーブルに置くと、今度は代わりに伏せてあったマンガ本を手にした。「雪が降っててもマンガか・・・」みやがそんな感じで、ちょっと呆れた様に肩をすくめたのが解った。
「ねぇ、もももやんない?」
「え?なにを?」
私が素で聞き返すと、みやは思わず苦笑う。「雪合戦にきまってんでしょーが」
みやは漁ってた鞄の中から取り出した手袋を、口にくわえ、まず片方を右手につけた。白地に黒のオシャレな手袋で、いかにもみやらしいなぁーと思った。昨日つけてた手袋とはデザインが違うから、きっとおろしたばかりの手袋なんだろう。
両手につけたおろしたての手袋を満足げに見つめながら、みやは言った。
「だってさぁ。せっかく雪が降ったのにもったいないじゃん。・・・明日になれば溶けちゃうだろーし」
「明日になれば、溶けちゃう・・・・・・・か」
そう呟き、私は窓枠に肘を着き、もたれかかった。
外界は雪化粧に彩られ、いつもの風景とはまるで別世界の様で・・・だけどみやの言うとおり、この夢のような美しい世界は今日限り。明日には何事もなかったように、いつもの街並みに戻ってしまうのだろう。
そう。まるで全てがウソのように消えてしまうんだ・・・。



そんな事を考え込んでるうちに、いつの間にか黙りこくってしまってたらしい。
みやはキョトンとした様子で問いかけてきた。
「どーしたの、もも?」
「・・・・・・・・・あのさぁ、みや」
「うん」
「ももね、雪見ると時々思うんだぁ・・・」
「・・・・なに?」
そう言って、私の後ろに立つみや。
背中にみやの視線を感じながら、私はぼんやりと外ではしゃぐメンバーを見つめていた。
「毎日、もも達楽しいじゃん?でも、いつか終わっちゃう日がくんのかなぁ〜って。雪を見るたびに思うんだぁ」
「・・・・・・・・・・はぁ?」

みやが「何言ってんだ?」って感じで反応するから、一瞬怯んでしまった。
自分でもなに言ってんだろ?って確かにちょっと思った。でも、頭で考えるよりも先に、動いたのが口のほうだった。

「ほら。みんなとこーやって、毎日が楽しいけど。いつか雪が溶けるみたいにさ・・・何もかも消えてなくなって、なんでもない生活に戻っちゃう日がくんのかなぁーって・・・ね」
「 ――――――― 」
無言。
みやの無反応が気になり、私は後ろを振り返る。
みやはなんだかキョトンとした眼差しで私を見ていた。
幾分感心したような、幾分驚いたような、そんな目線だった。

「なんか・・・詩人だね、もも」
そう言ってみやは、クスッと笑う。
「うっさいなぁー」思わず顔が赤らむ。
確かに。今更ながら、そーとークサイセリフを言った自分が凄く恥ずかしくなった。
「まぁ、マンガの受け売りだけどね」
手に持っていたマンガを胸元に掲げ、ごまかすように、はにかみ笑い。それは少女漫画まるだしな表紙のマンガ本で、みやは納得したように相槌を交わした。
「あはは、どーりで」
ドラマよりもさらに安っぽいマンガのセリフ。
だけどみやは、「ももらしいなぁ〜」って笑ってくれた。それがいいのか悪いのかよく解らないけどね。

「そっか。雪がとけるみたいに・・・・・・か」
そう言ってみやはクスッと微笑むと、私の隣に歩み寄り、大きく開かれた窓枠に肘をおろした。
外を見つめながら、何か考えてる様子のみや。
窓の外からは、相変わらずのメンバーの笑い声が響き渡ってきた。







                 ×         ×        ×






真っ白な大地には、梨沙子と友理の足跡がいくつも散らばっていた。
2人は相変わらず雪合戦の真っ最中で、その戦いはますます白熱を帯びるばかりだった。
青々とした空に、無数の真っ白な雪の塊が飛び交う。

「もー!そろそろやめなよ、2人とも!風邪引くよぉ」

いい加減呆れ顔のお母さん。
ちなこが2人に声をかけるが、2人は全く止める様子がない。と言うか、聞えてすらいない感じ。
ちなこはハァ〜と深くため息をつくと、チラッと隣にいる佐紀ちゃんの顔をかいま見た。佐紀ちゃんは凄く困った顔で、2人を必死になって静止していた。
佐紀ちゃんは優しいキャプテンだけど、優しすぎて少々頼りないのが難点だとも思う。
もっとビシッと叱ってもいいんじゃないかなぁーって思うけど。だけど、この優しさが佐紀ちゃんなんだよね。

「ねぇ、そろそろ30分経ったよ。戻ろうよー」
「ほら。佐紀ちゃんも困ってるよー。戻るよー2人とも!!」

だが梨沙子も友理も、ちなこの言葉に聞く耳持ちゃしない。
そんな2人にいい加減イラついてきたのか、ちなこは「ちょっとぉ!2人とも!!聞いてるの?!」と叫びながら雪合戦をする2人にズンズンと歩み寄った。
その時だった。

―――ボコッ!

「あ・・・・・・・」
友理の投げた雪の塊の1つがすっぽ抜け、梨沙子へと向けたはずの弾道を大きく逸らした。そしてそれは、梨沙子の代わりに、近寄って来たちなこの顔面へと直撃したのだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
瞬時に雪合戦は停戦する。
思わず無言で立ち尽くしてしまう梨沙子と友理。
球をくらって雪まみれのちなこの顔が、呆然から徐々に険しくなってゆくのが2階の窓からでも解った。
「あの。ご、ごめん」
そんな様子に怯えながらも、友理が恐る恐るちなこに近づく・・・と。

「あーーーーーもう!!!!」
青空へと響き渡るようなちなこの咆哮。乱暴に雪を鷲づかみにすると、ビクッと立ち止まっている友理の顔へ、ソレを思いっきり投げつけたのだ。
「だからやめろって言ったでしょーーが、このバカァ!!!!」
手当たり次第雪を投げまくるちなこに、さすがに友理も逃げ腰になる。
「ちょ、うわ。千奈美ちゃんがキレたーーーー!!!」
そして、その声が再開の合図とばかりに梨沙子も雪を拾っては再び友理へと投げつけた。
「ちょっと、2対1はズルーイ!!」負けじと友理は梨沙子へと投げ返す。
一時休戦となっていたバトルは、再び繰り広げられることとなった。




結局、雪合戦は意図せずちなこも加わる形となり、さらに激しくなるばかりだった。
雪原では凄まじいデットヒートが繰り返され、それはさながら内戦激化のイラクバクダット。流れ弾と化した雪が近隣へも被害を及ぼし、茉麻の雪だるまへまでも、雪合戦の球はよーしゃなくボコボコと当たった。
「こらー!!!こっちへ飛ばすなぁ!!!」思わず大声でクレームを付けるまーさん。
だけど、人の身長ほどもある雪だるまは大地にデーンと構え、ビクともしなかった。

一方、そのすぐ側でラグビーボールぐらいの大きさの雪の塊を、チマチマといじくる舞波。何処かからか調達してきた南天の実と笹の葉っぱをその塊に取り付けていた。
「できたーーー!!!」
それは、デーンと佇む雪だるまの隣に、ちょこんと置かれたカワイイ雪ウサギ。
南天の実で作った真っ赤な目に、太陽の光が反射し、キラキラと輝く。今にも動き出しそうな、生き生きとした目の真っ白なウサギ。
「ねぇ、茉麻。見て、出来たよ」
破顔。嬉しそうに立ち上がると、大声でまーさんを呼びとめる舞波。しかし――

―――ボコッ!

「あっ・・・・」
それは一瞬の出来事。
雪合戦の流れ弾の1つが、ものの見事に雪ウサギに直撃した。そしてそれが、雪ウサギを見事に打ち砕いてしまったのだ。
「・・・・・・・・・・・」
たった一発で壊れ、ただの無残な雪の塊になってしまった哀れな雪ウサギ。それは生まれて一瞬の命。
「・・・・・・・・せっかく。作ったのに」
思わずしゃがみ込む舞波。両の目に涙がにじむ。

そんな舞波に露ほども気づかず、相変わらずデットヒートを繰り広げている3人と、その3人にブツブツ言いながらも、着実に雪だるまを完成させつつある茉麻。
そして、『ミイラ取りがミイラに成ってしまった』3人を見ながら、「ねぇ、もどろーよぉ」と頼りない声で、いつまでも呼びかけ続ける佐紀ちゃんであった。






                 ×         ×        ×






「変わんないんじゃないかなぁ・・・」
窓の外を見ていたみやが、ふいに呟いた。
「え?」それはあまりに咄嗟だったので、思わず聞き返す。みやは小さく笑い、その肩をすくめた。
「きっとさ。雪が溶けたって変わんないよ。雪が降った日は、ほんの少し、街がキレイなだけだから」
その目線は誰に向いてるのかは解らなかったけど、窓の外の誰かを見ているような気がした。
もしかしたら、みんなを見てるのかもしれないと思った。
「雪に彩られて別世界のように見えるけどさ。実際は雪の下にはいつもの街並みが眠ってるんだもん。だから・・・雪が溶けてもいつもの街並みが現れるだけで、なーんも変わんないよ。雪が降って世界が変わったワケでもないし、雪が溶けて世界が消えてしまうワケでもないんだから」
みやは自分の言葉を確認するように、小さく頷きながら続けた。
「それと一緒でさ・・・。ベリーズになって毎日が充実して今が特別楽しく思えるけど、あたし達がKIDSであり仲間である事は何も変わってないし、きっとずーっと、これから先も変わんないんじゃないかな?もし、ベリーズじゃなくなる日が来ても、根底にあるあたし達の友情は変わらないよ」



目を細め、窓の外を見つめているみや。その目線は、しっかりと外にいるメンバーをじっと捕えていた。
だが、不意にハッとしたように目線をあげると、
「・・・・・・って。あたしも今、もしかして、そーとークサイ事言った?」
私の顔を見て、顔を真っ赤にして問う。その顔が余りにも恥ずかしそうなもんだから、ついつい釣られ笑い。
「うん。みやもそーとー詩人だよね」
そして2人でプッとふき出した。
なんだか無性に楽しくって、なんだか無性にホッとしてしまった。

なんていうのかな?特に質問に深い意味はなかったし、そんなに思い悩んでたワケでもない。
だけど、みやの答えを聞いて妙にホッとしたのも事実だった。うん、その通りだ。雪が溶けたって変わらない。
深く根付いてるモノは何一つ変わらない。私達の関係は、きっとずっと永遠。

話に納得したのが解ったのか、みやは窓枠から体を離し大きく背伸びをした。「んー。じゃ、そろそろ行くかなぁ」そう言ってみやは私の目を見た。
「ももも行くでしょ?」
みやの問いに、少し考えたあと、私はコクッと頷いた。
なんとなく、今は雪遊びがしたくて仕方なかった。みんなと遊びたくってしょーがなかった。
窓の外では、相変わらずな笑い声が響いていて、私達に「早くおいでよー」と呼びかけてるような、そんな気がした。







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「うっひゃぁー、寒いぃ」
思わず叫ぶ。
だけど建物の外は予想よりは暖かかった。きっとドピンカンの太陽のおかげだ。
青空に上る寒々とした真っ白な息も、なんだか心地良かった。
「梨沙子ー!手袋もって来たよー!!」
みやが梨沙子へと駆け寄る。ちょうど梨沙子は両手を擦り合わせて、寒そうに手に息を吹きかけている所だった。
「あ、みやー」みやを見て、心底嬉しそうな梨沙子の笑顔。すぐにみやへとすり寄る。
それを見ながら、私は思った。
楽屋へ手袋を取りにパシるみやの優しさの代償が、この子の破格の笑顔と信頼。そー考えると、確かに安いものなのかもなーってね。
「あーもう、こんなに手が冷たくなってんじゃん、梨沙子」
みやは梨沙子の手を握ってギョッとしてたけど、梨沙子は意に返してない様子だった。
「みやの手、暖かーい」そう言ってみやの手を頬っぺたにくっつけて、至極満足げな梨沙子の顔。
「まったくぅ・・・」ちょっと呆れ顔のみやだったけど、その笑顔は満更でもない様子みたいだよ。

一方、相変わらず雪を投げ合っているのは、友理とちなこ。ちなこが一方的に友理を追っかけて、友理はおおハシャギで逃げ回っているって感じだけどね。
「待てー!!友理奈」
「待たないよー」
そう言って振り返り、舌を出す友理。
その瞬間、友理がすっかり枯れ木と化したイチョウの木の下、ちょうど雪深くなっている場所に、その足をとられた。
「―――あ!!」
ステーン。
雪の上に倒れる友理は、頭から見事に雪まみれ。
「ちょっ。大丈夫?友理奈」ちなこが覗き込むと、友理は「あー、雪にハマッたーー!千奈美ちゃん、助けてぇ」と言って手をちなこへ向けて差し出す。どうやらおしりが深みにハマって抜けられないらしかった。
プッと思わずふきだすちなこ。
「アハハ、しょーがないなぁ」ゆっくりと手を差し伸べる。しょうがないと言うわりには、なんだか嬉しそうなちなこの笑顔。ギュッと友理の手を握ると、2人で笑いあう。
だけど、そのままただじゃ起きないのが友理らしさなんだよね。
友理はちなこと手を握り合うと、そのまま思いっきり、ちなこの手を後ろへと引っ張った。
「ちょっ!!!」突然の友理の予期せぬ行動に、大きくバランスを崩し、前のめりにステーンと倒れこむちなこ。
「アハハ、千奈美ちゃん引っ掛ったぁ!!」
真っ赤になって体を起こすちなこは、顔からすっかり雪まみれだった。
「こらーーーー!!!友理奈ぁぁ!!!!」大きな怒鳴り声ひとつ。
だけどその顔はすぐに、クスッ、おもわずほころんでしまう。そして楽しくってしょーがないって感じで、ケタケタと笑いだす。
「もー。このバカ!」
雪にまみれたまま、2人はずーっと笑い続けていた。




そして、そんな2人から少し離れた場所。
いい加減、みんなに楽屋に戻って貰いたくって仕方ない佐紀ちゃん。
「ねぇ、そろそろ戻ろうよ・・・」
誰も聞いてない中で、1人繰り返し呟く佐紀ちゃん。
だが、そんな佐紀ちゃんの下へまーさんが歩み寄った。「ねー佐紀ちゃん」
「あ、茉麻!茉麻ちゃんは戻ってくれる?」
だが、まーさんは全く聞く耳持たない感じ。「ねっ、佐紀ちゃん、こっち来て!」
「へ?」
手を引っ張る。強引に佐紀ちゃんを走らせるまーさん。
「ちょ、な、なに?」
「ホラ、見て!!!」
言われるままに佐紀ちゃんはまーさんの目線の方向を見る。佐紀ちゃんの目の前には、見上げるほど大きなデカ雪だるまが聳え立っていた。
「ほら!佐紀ちゃんより大きいの」
「・・・・・・・・・・・・・」
しばらく雪だるまを見上げていた佐紀ちゃん。だが、あはっと思わず笑顔をこぼす。
「大きなお世話!どーせ私は小さいですよーだ」





そして、壊れた雪ウサギの前で呆然としゃがみ込んだままの舞波。
風がピューっと通り抜けると、壊れた雪ウサギから白いキラキラとした雪が、空へ向かって舞い上がった。
キラキラした雪ウサギの残骸をぼんやり見つめる舞波。やがて、雪うさぎに人影が落ちる。ゆっくりと舞波は後ろを振りかえった。
「・・・・・・桃ちゃん」
私は舞波の隣にしゃがんだ。泣きそうな目でこっちを見つめる舞波。目の前の雪ウサギは、すっかりつぶれて原型をとどめてすらいなかった。
「だいじょうぶだよ。どーせ、明日になれば溶けちゃうんだからさ」
「え?」
私の呟きに、舞波が不思議そうに目を丸めた。私は舞波を見て、微笑む。
「どーせ溶けちゃうんだから。形で残すよりもさ、舞波が今、一生懸命雪ウサギを作ったって事実の方が、大切だと思うよ」
「・・・・・・・・・・・・桃ちゃん。見てたんだ」
私は笑う。「うん、2階の窓からね」
2階から見た雪ウサギは、今にも動き出しそうな位、生き生きとした目をしていた。
「すっごいかわいく出来てたよね・・・」そう言って笑いかけると、舞波は凄く嬉しそうに頷いた。
さっきまでの泣き出しそうな顔は、雪ウサギの残骸と一緒に、風がどこか遠くへと吹き飛ばしてくれたみたいだった。
「じゃーさ、もっかい作ろっか?舞波。今度はももも手伝うよ」
「うん!!!」


いつかは消える雪だけど、決して消える事のない日常がある。

だけど。街と一緒で・・・。

雪の日は真っ白な雪に彩られて、ホンの少し、人も街もキレイになれる。

雪の日は、そんな不思議な力を持った日。・・・そんな気がした。






FIN


北海道に旅行に行ったときに考えたネタです。
雪のネタは凄く好きですね。オイラも漏れなく『冬派』の人間ですから。
で、ジャンルはみやもも・・・なのかなぁ?コレ。一応、オールメンバー小説。
ゆりちなっぽいの初めて書いたけど、中々ゆりちなは萌えるねぇ。書いてて楽しかったです。