〜 約束 〜






今年もあと少しで終わり。
リハの休憩中に外に出てみると、思わぬ風の強さと寒さに隣の梨沙子が手を繋いでくる。
ん、恥ずかしいなとも思ったけど
あったかいし見てる人もいないからまぁいーかな。

「うっわ。寒いね、みやー」
うん、そうだね。冬だしね…。
と返しながら、寒いのは当たり前だなと気付く。
でも今年は地方では雪が凄い降ったらしいし、例年に比べると寒くなるのもずいぶん早いなと思う。

今日はお正月のハローのコンサートのリハーサルだ。
私たちベリーズは今年はワンダフルハーツ。
モーニング娘。さんたちやWさん・美勇伝さんに他のキッズ…ううん、いまは℃-uteだっけ。
どちらかと言うとハローの中でも若い人たちが集まったグループだ。
つまり、キッズが全員集合する。
去年は赤組と白組で分かれたから、愛理やめぐたちとは別々になっちゃったけど今年はみんな一緒だ。
それがとても嬉しい。
でも…

「舞波、元気かなー」

…。
梨沙子が突然、ウチの考えていたことを見透かしたように呟いた。

この子はいつもそうだ。なんでこんな…
「ねぇ、みや?」

「…元気だよ」
そう答えた。
当然のことながら「なんでわかんのー?」と間延びした声で聞いてくる。

あれ以来、舞波とは会っていない。
みんな電話やメール・手紙とかでそれぞれたまに連絡を取っているみたい、ウチの場合はたまにメールするくらいだ。
会っているメンバーはいないと思う。
まぁ、桃あたりは隠れて会ったりしてるかもしれないけど…

「ねぇ、なんでなんでー?」しつこく聞いてくる梨沙子に短くため息を吐いて聞き返す。「じゃあ、元気じゃないほうがいいの?」
「…っ!そう言うわけじゃ、ないけどさぁ…」
我ながら少しいじわるかなとも思う。

でもウチにはわかる。舞波は元気にやっている。
だって、ウチは約束したから。

「ねー、みやってさぁ…最後のコンサートも公演中は泣かなかったよね?悲しくなかったの?」
少しの沈黙のあと、梨沙子がバカなことを聞いてくる。いや、梨沙子だしアホかな?
コツンと頭をぶつけながら答えてあげる。「悲しくないわけないでしょ。悲しかったよ、すごくね」
そう。私は公演中は泣かなかった。ヤバい時は何回かあったけど、公演中は泣かないようにしよう。
そう、決めていた…。
「でもね、みんなが泣いていたら舞波も辛くなっちゃうでしょ?」
「へぇ〜我慢したんだ?」
我慢、か…。
梨沙子の言葉にどうなのかなとも思った。どうだったんだろう
そうなのかも知れない。
でも我慢と言うか、舞波と話したから。
だから私は、公演中は笑顔で見送ろうと決めた。
舞波の言葉は…それは確かに悲しくもあったけど、決してネガティブではなく私にも勇気を与えてくれた。
それは私が教えてくれたものなのだと舞波は言っていたけれど、私にはそんなに勇気はない。
ウチはもっと臆病な人間だ。
「みや?」
梨沙子の呼び掛けにハッとする。
「あぁ、ごめん」

我慢したわけじゃないんだよね。一緒にいられる時間がなくなるのは悲しいけどさ、舞波がやりたいことをできずにこのまま仕事を続けるのはもっとイヤじゃない?
「うーん?」
どうやら梨沙子にはウチの言いたいことがよくわからないようだ。
「そりゃ、ウチらはこの仕事のために色々なことを犠牲にしてるし、やりたくてもできないこともあるよ」うん。と梨沙子
これくらいは理解できるようだ。
「でさ、舞波にはこの仕事よりもやりたいことができたんだよ、きっと。
だったらさ、私たちにそれを止める権利はないんじゃない?」
とたんに梨沙子の表情が険しくなる。
「梨沙子の言いたいことはわかるよ。ウチだって舞波は仲間だし友達だもん。
それは舞波も一緒だと思うよ。
でもさ、一緒にはいたかったけどさ、舞波には舞波の道があって、ウチらにはウチらの…これからのベリーズを頑張る道がある。

冷たいかもしれないけど、どっちを選ぶかは本人が決めることだよ。

それに、もし舞波がいなくなったことでベリーズの人気が落ちてさ、それを舞波の責任にしたくないし、責任感じてほしくないでしょ?」
そう。だからあの時のウチらにできたことは舞波のこれからの幸せを願い見送ること。
そしてこれからは、舞波がいなくなってパワーダウンしたとか言われないように頑張ること。
舞波もそれを望んでいる。
あの時…


〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「ねぇ、みや?」
突然舞波に声を掛けられた。
ん、なに?と返すと少し困った表情を見せながら言った。
「ごめんね」と…。
舞波は真面目な子だ。
自分で考えて決めた結論、みんながわかってくれたとは言え、申し訳ない気持ちはあると思う。
なーに謝ってるんだか、自分で決めたんでしょ?
「…うん。」
少しの沈黙のあと、彼女は笑顔で言った。
そりゃ、ウチだって悲しいけどさ…舞波が悩んで決めたなら仕方ないよねー、うん。そっかー卒業かー。
最後のコンサートじゃきっとみんな泣いちゃうんだろーねー。
「ね、みや。一つだけ、お願いして…いいかな?」
突然といえば突然。舞波がウチにお願いなんてめずらしい。
えー、なにー?舞波がお願いなんてめずらしいね。
いーよ、ウチにできることなら聞いてあげるよ。
「ありがと。その、さ…」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


みや!!

またも梨沙子の声に現実に戻される。

「もぅ〜、ちゃんと聞いてよねー」なんて言いながら頬を膨らませている。
残念だけど可愛いだけで全然恐くない。
ウチが梨沙子の顔を見てニヤニヤしているとほっぺたを引っ張られた。

「うにーー」
いや、痛いから。うにーじゃなくて放してほしいんだけど。

「だって、みやっていっつも何でも知ってるみたいな顔してるんだもん。なんかズルい!」
や、ズルいとか言われても意味わかんないし
「なんか隠してない?」
問い詰められた。
隠してないよ。わざわざ梨沙子に隠すようなことは一つもないから。
「えー、うそくさーい」
再びうにうに引っ張られる。
や、だから痛いってば…。
そうだな、泣かなかった理由。教えてあげるか…
「あの時ね…」
いきなり話し始めたせいか梨沙子はなんのことかわからないようだ。
「舞波が卒業した日」
そう言うとやっとわかったのか、続きを促してくる。
「舞波に頼まれていたんだ。泣かないでって…」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「その、さ…こんなこと頼むのも変なんだけどね。最後のコンサートの時、泣かないでくれないかな?」
え…?
「もともと、みやは私なんかのために泣いてくれないかもしれないけど」
そんなことない!!すごい悲しいよ!
いまだって必至に大丈夫なふりしてるだけだし…

思わず声を荒げてしまった。
「そう…ありがと。」
そんなの当たり前じゃん。仲間だし友達なんだから。
「そう…だよね。
ねぇ、じゃあ友達としてお願いするね。泣かないって、約束してほしいな」
そんなのムリだよ。
約束なんてできない、きっと、ウチだって泣いちゃう。みんなだって…
「うん。たぶんみんな泣いちゃうと思うんだ。佐紀ちゃんも桃も…だから、みやにお願いなの」
い、意味わかんないよ!なんでウチなの?ウチはそんなに強くないよ。
「みやさ…よく、自分に勇気を持ってって言葉を使うでしょ?」
え?…使うけど、なんで?
「みやの勇気を私にも分けてほしいの」
分けるって…
「私が泣かないように…私が笑顔で卒業できるように」
笑顔で?
「私が自分で決めたことだけどさ、私だって悲しいもん。みんなと別れるの」
だったら!!
「ううん」
ウチが全部言う前に舞波はハッキリと首を横に振った。
「でさ、私が泣いちゃ桃たちも安心できないでしょ?心配させたくないんだ」

その気持ちはわかるけど、でも…
「だからお願い。みや、泣かないで…笑顔で送ってほしいな。
そうしたら私も笑顔で卒業できる気がするんだ」
そんなの…勝手だよ。
「うん、勝手だよね。

だから、最後のお願い」
…!?

「…ダメ、かな?」


……。

「ダメ、だよね。
やっぱり…勝手すぎるよね…」

「わかった。
約束するよ、ウチは泣かない。」
「…!ほんとにいいの?」

うん。その代わりこっちからも一つ条件をだしていい?

「え?条件って…」

簡単なことだよ。
最後じゃない。わたしたちはこれからも仲間だし友達。
「それは…」
もちろん、卒業を取り消してってことじゃないよ。
舞波がベリーズを卒業して普通の人の道を歩いても、私たちは仲間で、友達のまんま。それは変わらない

「それなら、喜んで」
少しはにかんだ、素敵な笑顔で彼女は言った。

「それじゃ、約束だね」

うん。約束…指切りしよっ!

「えー?指切りぃ?みや、ふるーい!」

いいの!ほらっ!

「うん。
…ありがとね、みや」

友達なんだから当たり前でしょ。お礼なんか言わないでよ
あ、それと卒業したあともちゃんと応援してよね?

「もちろん応援にいくよ」

よし、それなら冬のハロー見にきてよね。

「うん」

ウチも舞波のこと応援するよ


舞波が卒業しても、お互いに頑張ろう。
そう約束、したんだ

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

会話の内容全てってわけじゃないけれど、一通り話し終えて梨沙子の方を見たら、なんかまた頬を膨らませている。
また怒られるのかな、ウチ
「へぇ〜そんな話をしてたんだぁ」

本当だからね?
「別に誰も疑ってないじゃん。そういうこと言うと余計に怪しいよ〜?」

ぐっ…梨沙子に言われるとなんかムカつく。
「でもなんかいいなぁ…」
手を伸ばしながら梨沙子は言った。
なにがよ?
「んー、なんか舞波と二人だけの約束しててさ。うらやましい」
…はぁ?
「なっ、はぁ?って!私はうらやましいなぁって…」
まったく、なに言ってんだか…別に二人だけの約束じゃないよ。
確かにあの時、話していたのは二人だけだったけれど、お互い頑張ろう。その約束はウチと舞波だけじゃなくて、ベリーズのみんな…ううん、キッズのみんなと舞波との約束だよ。
「えー、でもその時は二人だけだし、他のみんなはそんな約束知らないじゃーん」
うーん…梨沙子もたまには正論を言うなぁ。
…よし


じゃ、梨沙子も聞いたし知っているから、いまは三人の約束だね。
「えー、なにそれー?」
これなら梨沙子も文句ないでしょ?
「む〜」
まだ納得しないようだ。

そのうち話すよ、みんなにも。

そんなことを言っていると佐紀ちゃんの声が聞こえてきた。
慌てて時計を見てみる…
「やっば…みや!もう時間だよ、早く行かないと」
ったく…あんたが余計な話をさせたんでしょーが。



舞波は卒業してしまったけれど、ベリーズの仲間は8人でキッズの仲間は15人。
これは変わらない。
ベリーズの仲間は増えることはあっても決して減ることはない。
いいんじゃないかなと思う…他の誰が忘れても私たちだけは絶対に忘れない事実。

離れていても仲間だし友達だもんね。



練習しよう。
見にきた舞波が一緒に楽しめるくらいのステージにするために…









〜FIN〜


名無しさん。より、頂戴致しましたー。
いやぁ〜しかし。ウチのサイトは幸せだなぁ〜。
管理人が小説サボってるのに、GIFT小説でサイト運営が成り立っていてさ、ハハハ・・・。
・・・・・・・・・





マ・ジ・で、KANSYA−KANSYAです!!!!orz







た、たまには頑張ろう・・・うん。
頑張れ、ヘタレキャプテンしみヤギ!!川;´・_・`リ∩


んで。
こちらの小説は、ご本人曰く、スイッチオンの中で雅ちゃんだけが涙してなかった事に対する、雅ヲタの必死の言い訳が小説へと具現化した作品との事ですw
うん、確かに雅ちゃん、スイッチオンで泣いてなかったですよね。
雅ちゃんって泣き顔を見られるのが嫌いなタイプみたいなんで、(スイッチオンのDVDパンフで泣いた時も、必死に泣き顔隠してたよね)このコンサ中も、相当泣きそうなのを我慢したんだろうなぁ〜とは、オイラも思いました。
そこに舞波との約束があったのか、自分自身で泣かないと決めたのかは勿論ウチらには解かりませんが、こういうシーンで涙を堪えられる子ってのは凄く精神力のある子だと思います。
「涙が出ない」と「涙を堪える」とでは、全然意味が違うからね。
雅ちゃんは舞波の卒業にあたり、「涙が出なかった」と言うよりは、「涙を堪えた」んかなぁとオイラは思います。
勿論この小説も、そう言う意味合いで捕らえている小説です。

まぁ、実際のトコどーなの?と言われると真相はわからんのですが、少なくともオレら雅ヲタの知ってる雅ちゃんは、メンバーの卒業にあたり、必死で涙を堪え笑顔で見送ってあげる、そんな意思の強い女の子なんです。
・・・・・・・・・・・・・。
ちなみに、ノノ;∂_∂ル<オマエ桃子ヲタだろ! ってツッコミは締め切らせていただきますw



モドル