始まり。



走る。走る。走る。
梨沙子の身体はまるで目的地を知っているかのように動いた。
前へと、前へと進んでいく。
桃子とのキスで溢れたもの。
今まで気づかなかったのが不思議だった。
梨沙子の身体を動かすのはたった一つの気持ち。
雅が好きで好きで仕方ないという強い感情だった。

―みやが好き。

ただ、それだけ。






―始まり。―




梨沙子の足が止まった。
着いた場所は屋上。
時間はもう夕暮れを迎えていて、地平線に沈もうとしている太陽はビル群にさえぎら
れてみることが出来ない。
だが屋上は太陽をさえぎる高層ビルの明かりのおかげで真っ暗ではなかった。
むしろそれは降りてきた暗闇に眩しいほどの光を溢れさせる。
梨沙子も屋上までの階段とは段違いの明るさで目がちかちかしていた。
だけど、そんな光のおかげで梨沙子は雅を見つけることが出来た。

「…みや?」

恐る恐る雅に声をかける。
梨沙子が見つけた雅はいつもの雅ではなかった。
屋上のフェンスに寄りかかって俯いている雅はどこか違っていて、梨沙子は違和感を
覚える。
薄暗い光と相まって泣いているのかとさえ思った。

「何の用?」

雅のもとに駆け寄ろうとした梨沙子が立ち止まる。
聞こえてきた声に思わず立ち止まってしまったのだ。
その声は涙声でも震えてもいない。しっかりしたいつもの雅の少し高めな声だった。
しかしそこに梨沙子のことを優しく呼ぶ雅の声はなかった。

「えっと、あの、みやに話したいことがあるの。」
「話?…ももとのこととか?」
「えっ、みや、知ってたの?」

梨沙子が顔を上げて雅を見ると、
いつの間にかこっちを見ていた雅と目が確りと合った。
雅は梨沙子の返事にやっぱりと言う風に鼻で笑うとまた俯いてしまう。

「桃ちと付き合ってることなら、知ってる。それだけなら、帰って。梨沙子。」
「ちが、みや、違うの。桃と付き合ってたのは本当だけど、話ってそれじゃなくて。
桃にはさっき振られて、ん?振って?えっと、とにかく、今はみやを探してて…。
話っていうのはみやになの。」

違う、そうじゃない。
雅に話したいのはそんなことじゃない。
桃子と付き合っていたのは本当だけどそのことじゃなくて…。

言いたいことは決まっているのに言葉が出てこない。
たった一言なのに、出てこない。

―みやが、好き。

「あたしに話?何?」

俯いたままの雅から冷めた声が流れてくる。
さっきから変わらない声、だから梨沙子も動くことが出来ない。
まるで壁があるかのように雅に近づけない。
でも越えなきゃいけない。
雅が好きだから、…雅が好きなら壁を壊さないといけない。

「梨沙子?」
「みやが、好きなの。みやを、好きなんだもん。桃ちじゃないん…だもん。」

梨沙子の必死の想い。
それが雅に伝わったとき壁はきっとなくなったのだろう。
言葉と共に梨沙子は雅のもとへと走り出していた。
そんなに広くない屋上で梨沙子はすぐに雅のもとへとたどり着く。
そしてそのまま飛びついた。

「梨沙はみやが好き。」
「…梨沙子。」

身体に染み付いた動きだったのか雅は飛びついてきた梨沙子を自然に抱きとめていた。
梨沙子は無意識にでもいや無意識だからこそ身体に回った手が嬉しかった。
そこにはさっきまでの梨沙子を拒絶する雅はいない。
いつもの雅がいた。

「ねぇ、梨沙子。本当にあたしが好きなの?」

するすると雅の手が梨沙子の顔に添えられる。
雅の綺麗な顔が目の前一杯に広がり梨沙子は固まってしまう。
雅はそんな梨沙子を見てほんの少し微笑むと瞳に試すような光をこめてこう言った。

「あたし、言葉だけじゃ信じられないの。梨沙子、あたしを好きなこと証明してよ。」

本当は、もう知ってるよ。
顔を見れば分かる、梨沙子のことだから。
でもこういうのはきちんとしないとね?

「あたしが好きなの?」
「う、うん。」
「ならキスくらいできるよね?」
「う、うん。……っえ、みや?」

梨沙子の問いかけにも雅は微笑むだけで答えない。
だが頬に添えられたままの手や、静かに閉じられた瞳が表すのはやはりそれで。
梨沙子は反応できない。

どうしよう。
梨沙子は思った。
キスは初めてではない。
さっきした桃子とのキスが梨沙子にとっての初めてだった。
だけど桃子とのキスは雅への気持ちを自覚してしまうきっかけになっただけであっ
た。
ある意味好きな人とするキスはこれが初めて。
…どうしよう。
梨沙子は困っていた。

「梨沙子、早く。」
「う、うん。」

雅は知っていた。
梨沙子が自分にキスできないだろうということを。
伊達に長い年月を過ごしてきたわけではないのだ。
だから雅は妥協することにした。

「梨沙子。」
「えっ?」

軽い、本当に軽いキスを唇に落とす。
二秒にも満たない時間だが雅はしっかりと梨沙子の唇を味わった。
雅によって顔を固定されていた梨沙子では避け様がない。

「えっ、え?み、みみ、みや?」
「今度は梨沙子からしてね。」

梨沙子の白い肌が真っ赤に染まった。
真っ赤に染まった梨沙子の顔には微塵もウソは含まれていなくて。
雅は梨沙子をまっすぐに信じる事が出来る。


終わったかと思った恋が実って、続くかのように思った恋が終わった。

雅と梨沙子の恋は始まったばかりである。


―始まり。―      終


メン後さんよりGET!!いつもあっとうございます。
お陰さまで、ウチのサイトが廃墟にならずに済んでおります。感謝感謝です。

前作、ゲームセットの続編ですね。
オイラが「りーちゃんのその後が気になる」とかワガママ抜かしたら、続編を作ってくれましたw
人間、ワガママを言ってみるもんですね(ハート

いやぁ、それにしても・・・
雅ちゃんの尻に引かれる一方のりーちゃんが最高にキャワイイ。
そして、雅ちゃんの強引な率先ぶりがステキすぎ。
りーちゃん、あばばばしちゃってるじゃん。勘弁してあげてよ、雅ちゃんw

うん。身を引いたももちには悪いけど・・・


やっぱ、りしゃみやはサイコーだねw




ル;’‐’リ<あんた確か、りしゃもも推しじゃなかったのかよー・・・。


モドル