ゲームセット
気づかない内に少しずつ二人の距離は縮まっていて
気づいた時にはもうゲームオーバー
結構良くある話じゃない?
―ゲームセット―
雅がそれを見たのは楽屋であった。
僅かに開いた隙間から見える顔と顔。
それはぴたっと重なっていて、しかも良く知る相手の顔だった。
「…なんでっ。」
なんで!
雅にも何が「なんで」なのかは分かっていなかった。
ただその場面を見たときに自然と浮かんできたものが「なんで」だった。
―女同士であるということに対する気持ち悪さでもなく
―あの二人が付き合っていたということを知らなかったという悲しさでもなく
それは梨沙子が桃子に取られたというどうしようもない怒りであった。
なんであたしの梨沙子が桃とキスしているの?
なんであたしの梨沙子が桃と付き合っているの?
なんであたしの梨沙子が桃と抱き合っているの?
なんで?
なんであたしはこんなに怒っているのだろう。
「なんで」から搾り出された答えに雅は一瞬硬直した。
そしてもう一度頭の中で出た答えを考える。
知らずに自嘲的な笑みが浮かんだ。
「あたし、梨沙子が好きだったんだ。ううん、好きなんだ。」
気づいたときには終わっていた。
雅にとってそれは余りにも悲しすぎる恋の結末だった。
++++
「―これで、わかったでしょ?」
桃子は静かに言う。
目の前には俯いて涙を必死に堪えている梨沙子がいた。
梨沙子は下を向いて桃子に涙を見せないように我慢している。
だけど梨沙子より背の小さい桃子からは俯いた顔さえもハッキリと見ることができる
のだ。
「みやの所に行きなよ。」
早く、早くっ!
この笑顔が崩れないうちに、涙がこぼれないうちに早く行ってよ。
「早く行きなさい!…あたしは、分かってたから。」
最後の一仕事、最高の笑顔で梨沙子を送ること。
悲しいけど、嫌だけどここで泣けば梨沙子は雅のもとへは行けない。
だから笑顔で、得意な笑顔で。
桃子の笑顔を見て梨沙子は涙をにじませたまま楽屋を出て行った。
ぱた、ぱた、ぱた、とお世辞にも速いとは言えない速さで梨沙子が雅の所へ走ってい
く。
離れるにつれ桃子の顔から笑顔が抜けていく。そしてとうとう桃子は床に座り込ん
だ。
桃子は一人楽屋に取り残された。
「もも、お疲れ。」
一人になったと思った楽屋に別の声が響く。
唯一の同い年、グループのキャプテンを務める佐紀だった。
「佐紀、ちゃん。…終わっちゃ、った。」
言葉が出てこない。
言いたいことは山ほどあったのに、言える今になって出てこなかった。
代わりに出てきたのは溢れるほどの雫。
目から水分が止めどなく出てきて、それにつられて口から嗚咽も漏れ出した。
「お疲れ、もも。よく頑張ったと思うよ。」
ふんわりと優しく佐紀に抱きとめられてついに桃子の涙腺は決壊した。
ひっく、ひっくと息をするのさえ苦しかった。
涙が頬を伝って流れ落ちどんどん佐紀の服に染みを作っていく。
それでも文句一つ言わず、身じろぎ一つしなかった佐紀の優しさが身に沁みた。
「あのっ、ひっく。二人はぁ、鈍すぎる。ふつっ、気づく、でしょ。」
桃子があの二人の気持ちに気づいたのは梨沙子と付き合う前だった。
それまで全くメンバーの恋事情など気にしていなかった桃子がそれに気づいたのは、
なにより自分が当事者となったから。
桃子は梨沙子を好きになって梨沙子とその想い人である雅の気持ちを知った。
というか自然に分かってしまったのだ。
あの二人は好きあっていると。
「なのに、なのにぃ。りしゃこはっ、あたしと、ひっく、付き合うしさぁっ。」
玉砕覚悟で告げた恋だった。
むしろそれで雅への恋心を自覚してくれたらとさえ思っていた。
そこで桃子が振られて、梨沙子と雅が付き合っていたらこんな面倒くさいことにはな
らなかっただろう。
だが梨沙子はあっさりと桃子と付き合う事を承知した。
雅も何も言っては来なかった。いや、たぶん知らなかったのだろう。
恋愛ごとに疎い雅だから。
「嬉しかった、ひっく、けどっ、すごい、…苦しかった。」
「ももはもう休んだほうがいいよ。ずっと側にいるから。」
今でも桃子は覚えていた。
梨沙子と付き合える嬉しさと梨沙子が雅を好きなことを知っている苦しさ。
梨沙子本人はついさっきまで気づいてはいなかったが。
いつか終わると知っている恋をするにはまだ心が持たなかった。
佐紀は桃子の背中をあやすように撫でると眠るように促した。
それに従い桃子が体の力を抜くとずんと瞼が重くなってくる。
桃子はその睡魔に任せて深い眠りについたのだった。
桃子は佐紀の腕の中で夢を見た。
とても幸せな夢を見た。
そこには笑っている桃子がいて、梨沙子の雅に見せるような幸せそうな笑顔があっ
た。
とても幸せな、夢だった。
―ゲームセット― 終
吉よしメン後さんからの頂き物です。
オイラの「滅多にお目にかかれない、黒くない桃子(略して白桃)が見たいにゃ〜」と言う、無責任なリクエストに、ここまで見事に答えていただけるとは!!マジで感謝&ビックリです!!!
川 ´・_・`リ∩<あっとうございました!!!
白い桃子って萌えるんですねぇ。なんか凄く感動しております、オイラ。
あの、確かに普段あんな感じでマイペースな桃子がさ、こー言う弱いところをチラリと見せるとかなったら、もう、キュンとしちゃうよね!!
今、まさにそんな感じ。『君に、胸キュン』ですよ!!
『君に、胸キュン』を知らない方は、最寄りのオッサンまでどうぞ。
って。まぁ、それはともかく。
この小説を見ると、桃子にキュンとします。
そして佐紀ちゃんに惚れます。
あぁ、もう!!おねーさんズ、大好っきぃい〜〜〜!!!
ル;’‐’リつ川;´・_・`リつ<オマエ、ちょっともちつけ・・・