なんか、何処か噛み合わないあたしたちだけど
なんでか、離れることもできなくて
結局いつの間にか一番長く一緒にいた人になっていたんだ。


―星に乗せる願い―


「佐紀ー、来るのが遅いよ。ほら、早く書いて書いて。」

ぱたぱたぱたと桃がスリッパを鳴らしてこっちに来た。
あたしは今、帰ってきたばかりで。
桃が何故人の家に、しかも本人のいない人の家にいるのかはもうどうでも良くなってきている。

―どうせ、今日だからなんだろうし。

にこにこ笑顔の桃。
純粋に今日が楽しくて仕方ないのだろうか。
部活の疲れでとろとろと靴を脱いでいたあたしを桃が引っ張りあげた。
桃は何気に力持ちだ。
あたしはされるがまま。
桃を拒むことは出来ないし、しても無駄だと知っている。

「桃、今日が七夕だからって元気よすぎ……。」
「早くしないと願い事かなわなくなっちゃうよ!」
「そんなことないでしょ。」

―ていうかそんな時間きっちりの七夕やだし。

あたしのそんな呟きは桃の勢いに潰されて言葉にならなかった。
縁側まで鞄も下ろさせてもらえずに連れて行かれる。
そこにはあたしではなく、桃のリクエストで毎年取られてくるようになった大きな竹が。
しかも既に何枚か短冊が飾られている。
みややりーちゃんが来て結んでいったとしても明らかに多い。

「桃、一人で一体何枚書いたの?」
「えーと、五枚くらいかな?」

「頑張って減らしたんだよ!」という桃の言葉に思わずため息が出た。
多いからと突っ込むべきなのだろうか。
ちょっと自問自答してみてすぐに諦める。

―桃にそんなことしても意味ないし。

なんたって人の部屋を私物化する女の子なのだから。
あたしの部屋は今では桃の物の方が多いのではないかと思うほどだ。
まぁ、それを許してしまう辺りあたしは確実に桃に毒されている。
日々増えていく小物は邪魔だし捨ててしまいたくなるけど、何故かそうすることはできなくて。
きっとこの甘さがあたしと桃がずっと一緒にいた証拠なのだろう。

「はい、佐紀。」
「あっ、ありがとう。桃。」

手渡された黒ペンと長細い青い紙。
言うまでも無く短冊である。
隣では桃が同じようにペンで赤の紙に何かを書いている。
まだ書くのかよと思ったが言わず、自分の願い事を書こうと紙に向かった。
そして……

「どうしよ?」

改めて考えると別に特に叶えて欲しいことなんてない。
部活の試合に勝てますようにとか桃のたかり癖が治りますようにとか、そういうのは浮かんだ。
けど自分の紙に書くような願いが浮かばない。
当然、手は不自然に止まったままだ。

「書きたいこと無いの?」
「ん、特には。」

もう一枚書き終わった桃があたしの手元を覗き込んで聞いてきた。
きょとんとした表情は結構珍しいかもしれない。
不意打ちの表情に胸がきゅんとした。
桃に驚かされることはよくあるが、どきりとさせられるのは余り無い。
まぁ、普段から隣にいたら慣れでそんな場面が無くなってしまうのだ。
ある意味あんなに近くにいて、何時までもキラキラした目でみやを見ていられるりーちゃんは本当に凄いとあたしは思う。

―好き、なのかなぁ?

あたしの思考は逸れに逸れて、ぼんやりとしたあやふやな物に変わる。
前、みやに言われたことがある。
桃に甘いよねって。
佐紀ちゃんは基本誰にも優しいけど、桃には甘いよねって。
それはあたし自身も気づいていた。
けど何で甘いのかなんて考えたことも無かった。
幼馴染だから、それだけで十分な理由になったからだ。
でもそろそろ誤魔化すのも限界になってきているのかもしれない。
あたしも桃も、もう高校生だ。
恋人の一人や二人できてもおかしくない。
その事実にペンを握る手に力が入る。

―あぁ、疲れてるのかもしれない。

桃がいる場所でこんなにぼんやりしてしまうなんて。
そんなあたしに桃は気づかない。

「佐紀?書かないなら、桃が書いてあげようか?」

にやりと正にそんな笑み。
こういう顔の桃はあたしの考え付かないことをさらりとする。
桃はあたしの返事など待たずにすっとあたしの手の中から短冊を取り上げた。
その行動が強引だなんてちっとも考えていない顔。
あたしは苦笑するしかなかった。

「んふふー、佐紀の願いなんて桃にはお見通し。」
「はいはい、あたしの願いをどうぞ、書いてください。」
「あーっ、信じてないでしょ?」

さらさらと桃が『佐紀の願い』を書く。
あたしにはさっぱり分からないことなのに、桃にはそんなことないようだ。

「はい、ズバリこれが佐紀の願い事でーすっ。」

妙に元気な桃に手渡された紙を見る。
内心ちょっとドキドキしていた。
だってあたしには分からないのに桃に理解されてるなんて。
ちょっと困る。
でも見ないのも変だから意を決して紙を見る。

『あたしとずっと一緒にいたい。』

「……へ?」
「これでしょ、佐紀の夢。」

ずいっと胸を張って桃が言う。
胸を張っている割に上目遣いというあたしには絶対まねできないポーズだ。
あたしは呆然と自分の手元の紙と桃を交互に見る。
そんなあたしに構わず桃は相変わらず自信満々の様子であたしを見ている。
自信満々すぎて何だかあたしは段々可笑しくなってきた。

「ぷっ……ふふふふ、あははははは!」
「な、何?佐紀、実はかなり疲れてるんじゃない。」
「だって、だって桃が……っ。」

―桃があんまりにも自信ありすぎなんだもの。

続けようとした言葉は再び復活してきた笑いに消された。
あー、涙が出てきた。
涙でぼやける視界の中で桃がおろおろしているのが見えて、さらに笑えた。
あたしは涙を拭うともう一度書いてある文章を暗誦してみる。

―桃らしい。

「それに、この願いも主語ないし。誰と一緒にいたいか、あたしにしか分かんないじゃん。」
「あっ、てことは〜願い自体は当たってるんだぁ!」
「まぁそういう事にしとく。」

途端元気になった桃にあたしはくすくすと笑いながら返す。
あながち間違ってないような気がした。
それは確かにあたしの中にある願いだったのだから。

「幼馴染って馬鹿に出来ないね。」
「でしょ、でしょ?佐紀の願いは絶対これだと思ったんだよね。」

桃があたしの手から短冊を取って竹に飾ってくれた。
あたしや桃、りーちゃんやみやの願いが吊るされた竹は色とりどりの紙で飾られていて綺麗だった。
ちらちら見える文字は桃のものが圧倒的に多くて、また少し笑った。

「あの短冊書き直さなくてよかったの?」
「いいよー、別に。桃が分かってればあの願いは叶えられるじゃん。」
「それは、そうだけど。」

ちょっと気恥ずかしい。
でも何もかも分かってしまう関係が今は心地よかった。
ちらりと向けた視界に鮮やかなピンクの紙が舞う。
あたしは確りと見た。
桃の字で『佐紀とずっと一緒に入れますように。』と書いてあるのを。
何枚目に書かれた願いかは分からないけど、それが存在してるだけで良い気がした。


離れたいわけじゃない。
でもずっと一緒にいれるとは思えない。
だからせめて二人の願いが重なるうちは一緒にいたい。


―星に乗せる願い―  終






いつもあざーーーす!!メン後さん。テヘテヘ。
パラレルももさき。
「前作のベリーズパラレルの続きか続きじゃないか良く解らない」とは当人の弁ですが、
見た感じ続きって感じがするので、続きって事でオイラが勝手に決めますw
らってメン後さんの例のシリーズのベリパラ(ベリーズパラレル。not ベルバラ)のももさき、好きなんらもんw
ハァ、佐紀ちゃんには幸せになって欲しいですなぁ〜。