―桃の誕生日、雅の受難日―


「なんで、桃がいるの?」
「佐紀の家にいったら追い出されちゃった。」

家に帰ったら桃子がいた。
なのに梨沙子がいなかった。
珍しいと雅は素直にそう思った。
桃子は大体、佐紀の家に行くからだ。
雅の家に来るのは佐紀と一緒か、梨沙子に会いに来るときだけだった。
何で梨沙子に会うのに自分の家に来るのか雅には不思議だったが、
事実、梨沙子は雅の家にいることが多かったので仕方がないかと諦めている。

―佐紀ちゃんに追い出されるなんて何したんだろう?

何かよっぽどのことをしたに違いない。
大体は仕方なさそうな笑顔で許してくれるのだから。
桃子にしても初めての経験だったのか、いつもの笑顔もちょっとヘタレている。

「何?喧嘩したとか?」
「ううん、別にいつも通りだったんだけど………。」

がっくりと肩を落としている姿は何故か逆に笑いを誘えた。
雅はその姿に珍しいともう一度思った。
どうやら桃子は本気でショックを受けているようだ。
いつもなら落ち込んだとしても直ぐに復活する人物なのに。
珍しい日もあるもんだと日付を確認しようと雅はカレンダーに目を向けた。

―あー、なるほど。

見た瞬間に納得した。
これなら佐紀ちゃんも桃を追い出すはずだと。
そしてまたまた雅は思った。

―めっずらしいー。

あの桃子が自分の誕生日に気づいていないなんて。
本当に今日は珍しい日だ。
誕生日が近くなれば大声で宣伝する、までしなくてもプレゼントをねだるくらいは遠慮なく普通にする子なのだから。
一応佐紀に確認してみようと雅は自分の携帯を取り出す。
考えるまでもなく理由もなしに佐紀が桃子を追い出すなんてするわけがないのだから。
すると新着メールが来ているのが分かり、雅は先にそれを見る。
予想通り佐紀からであった。


題:無題
桃そっちに行ってるよね?
悪いけど一時間くらい預かってて!!
誕生日会の準備してるから。
あと梨沙子はこっちで借りてるから、心配しなくていいよ。


よっぽど急いでいたのか絵文字も顔文字も何もないメール。
桃子が雅の所にいると確信している内容が少し面白かった。

―桃の行動、完璧に読まれてるじゃん。

雅は了解とだけ打って直ぐに返信した。
今日に限っていなかった梨沙子のことも佐紀と一緒にいると分かれば安心だった。
そういえば桃子の誕生日のためにプレゼントだって買っていたことを思い出す。
先週の日曜日、梨沙子と買い物に行ったときにたまたま買ったのだ。
物忘れの激しい梨沙子が桃子の誕生日を覚えていたことに驚いたのだが、理由が分かった。

―佐紀ちゃん、最初からこうするつもりだったんだ。きっと。

梨沙子には自分の手伝いを、雅には桃子を。
そして佐紀は梨沙子にだけ教えておいたのだ。
桃子の誕生日会をすることと自分の手伝いをして欲しいということを。

―やられたなぁー。

ばっちり、はめられた気分だった。
桃子の相手はとても疲れるのだ。気分が。
いつも梨沙子か佐紀が間にいた為二人きりというのも少ない。
梨沙子に誕生日会の準備を桃子に知られずに引き止めるなんて出来そうにない。
だからこれは仕方のない役割分担なのだが、ちょっと困ってしまう。

「みーや、なんかしたの?」
「ううん、なんでもないよ。で、桃はこれから何するつもりなの?」

携帯片手に固まった雅を桃子が不思議そうに見た。
雅は慌てて携帯を元の場所に戻し、笑顔を浮かべる。
引きつってしまった気がしないでもないが大丈夫だろう。
今日の桃子はちょっと抜けているから。

「どうしよー。佐紀に何かしたなら謝りたいけど、身に覚えがないしさ。」
「……ていうかさ、いつもしてることでよく佐紀ちゃん怒らないよね。」
「幼馴染ですから。」

―いや、絶対それが理由じゃないし。

心の中で思わず突っ込む。
自分にも幼馴染はいるが桃子のような行動をしたら怒ると思う。
相手が梨沙子だと許してしまいそうな気もするが。
桃子だったらまず怒る。
絶対に怒る。

「だってさ、まず佐紀ちゃんのお小遣い返したことないんじゃない?」

―ほぼ私物化だし。

佐紀の部屋の半分くらいは桃子の私物だと雅は知っていた。
時々佐紀が愚痴るからである。
そしてお金もその類に漏れない。

「パクってはないよ、半分くらいは返してるし。
 お金はないけど物で返すときもあるし。」

後は気持ちで埋め合わせ?と桃子は誤魔化すように笑う。
首の傾げ方にこだわりが感じられた。
雅は深いため息を一つついた。

「ホント、よく佐紀ちゃんに今まで追い出されなかったね。」

誕生日に貰った佐紀と桃が共同で買ったというプレゼントも嘘っぽく思えてくる。
もしかしなくても嘘なのかもしれないが。
呆れを見せ始めた雅に桃子は不思議そうな顔をしている。
こういうところが時々常識はずれだ。
悲しいことにそれは佐紀といるときに一番多く発揮される。

「まぁ、いいや。お菓子でも食べる?」

どうでもいいし、と心の中で付け足しつつ雅は言った。
桃子と一緒に時間を潰すにはそれが一番だ。
まず間違いなく梨沙子の分のおやつが台所に用意されているだろう。
毎日の習慣として。
それを桃子に上げればいい。

「食べる!!みーやの家のお菓子って美味しいんだよね。」
「そうかな?じゃ、取って来るね。」

予想通り喜色満面の笑顔で桃子は頷いた。
雅も軽く笑い返すとおやつを取りに台所に向かう。
これで一時間くらい楽につぶれるだろうと思った。



++++



「「桃、誕生日おめでとうー!!!」」

あの後お菓子を食べつつも、やはり桃子は佐紀のことを気にしていた。
今日の朝からの行動を逐一雅に報告して、何か変?と尋ねる。
雅にしてみれば知りたくもない桃子の行動を延々と聞かされたのだ。
疲れた、とその一言しか出てこないくらいに疲れていた。
どちらかといえばゆっくりと話す梨沙子に慣れていた雅は、桃子の口を挿む暇もない話し方に辟易していた。

―佐紀ちゃん、マジで尊敬する。

あの桃子に毎日付き合うなんて雅には無理であった。
自分は梨沙子で精一杯だと身にしみて思う。

「あ、そっかぁ。今日桃の誕生日じゃん……。」

突然の歓待に固まった桃子がやっと言葉を発する。
その様子から本当に驚いていることが分かる。

―少しも気づいてなかったもんなぁ。

佐紀に謝りに行くと言ってこの家に来る最中さえ桃子はちっとも気づいていなかった。
そんな桃子は珍しくて佐紀のことを本当は大切にしていることが良くわかった。
なんせあの桃子が自分の誕生日を忘れていたのだから。
未だに呆然とした様子の桃子を佐紀はしてやったりといった感じの笑顔を浮かべ見つめる。
日ごろの仕返しが出来て嬉しいのだろうか。
それともただ単に自分の作戦が成功して嬉しいのだろうか。
雅には分からないが、別に気にするようなことでもなかった。

「みやも、ほら、上がってよ。梨沙子、料理とか頑張ってくれたんだから。」

見てあげてと佐紀に告げられ雅も桃子に次いで佐紀の家に上がる。
佐紀が梨沙子を連れて行ったわけが分かった。
実を言うと飾りつけとか、力仕事系なら余り役に立たないだろうと思っていたのだ。
いつもなら雅も一緒にするから危なっかしい事をしても助けられるのだが、今日は別々だった。
だから手伝いに行って邪魔をするようなことをしているんじゃないかと
雅は心配していた。
だが、そんな梨沙子でも料理は上手だ。
雅は佐紀の言葉に笑みを浮かべる。

「へぇ、梨沙子が作ったんだ。」
「うん、時間もあったし材料も佐紀ちゃんが用意しておいてくれたから頑張った。」

にへらと力の抜けるような笑みを浮かべて梨沙子が言った。
料理は上手にできたのかその声は少し自慢げである。
笑顔のまま雅の手をとると料理の準備がしてあるだろう部屋に引っ張っていこうとする。
桃子たちは既にその部屋に入るところであった。
雅はしょうがないなぁという様子で梨沙子に引っ張られていく。
しかしその顔には楽しそうな笑みが浮かんでいた。

「みーやん!梨沙子!早く、桃のケーキが溶けちゃうよー!」
「今行くー。」

桃子が顔だけを部屋から出し、満面の笑みで雅たちを呼んだ。
その笑顔はいつもの桃子だった。
佐紀に嫌われたわけでないと分かり安心したのだろう。
雅は一度梨沙子と顔を見合わせると手を繋いだまま歩き出す。
二人とも笑顔だった。

「桃、すっごい嬉しそう。」
「滅多にないご馳走だから早く食べたくて仕方ないんだよ、きっと。」

四人揃ったらまず何をしよう。
ケーキにロウソクを立てて歌おうか。
それともプレゼント交換を先にしようか。
何から始めても楽しそうだ。
なぜなら今日は誕生日。
年に一度の誕生日なのだから。

「「「桃、誕生日おめでとう!」」」
「ありがとう!!」



―ハッピーバースデー、桃子!!―






―桃の誕生日、雅の受難日―   終





恒例のメン後さんより、チョー有り難い誕生日小説プレゼント!!
いつも助かります。なんかもう、こっちのサイト、メン後さんのサイトにします?w

内容としましては、前作、「りーちゃんの健闘(観察)日記」と同じ設定との事。アンリアルですねー。
ってか、微妙にこのシリーズの設定の桃子、貧しさが滲み出ていてオモシロいですw
そして、さりげなーくりしゃみやが混ざっているところが、りしゃみやヲタの業と言うモノ。
それにしてもいつもステキ小説あっとうごさいます。お陰でうちのサイトはメチャメチャ助かってまーす。また小説くださいねぇ〜ん(ハート


・・・・・・・・・。


ってか、こう言う図々しいトコロが、段々推しメンに似てきている気がするのは、自分の気のせいでしょうか?w


                                                                             モドル